「月刊サスペリア・ミステリー」誌(秋田書店)が毎月横溝作品のコミカライズを引っ提げて金田一コミックの舞台に躍り出たのは、横溝正史生誕百年を間近に迎えた2001年。
毎号毎号新たな漫画家を投入することで、固定作家のイメージにとらわれず、様々な顔の金田一耕助や人形佐七を誕生せしめたが、その分個性に乏しく、いまだ突出した印象を残す作品を生み出せていない。
その反面、作家を固定させないシステムは、毎月コンスタンスに横溝コミックが掲載されるというメリットもあり、一原作に対し一漫画家の執筆を割り当てた「ミステリーDX」(角川書店・2003年休刊)に、大きく水をあけた。
(画の好き嫌いやクオリティはともかく)毎号お目当ての探偵ものが必ず読めるという効果は意外に大きく、かくいう筆者自身も、創刊以来毎号欠かさず購入している愛読者の一人である。
例えて言うなら、職人シェフが丹精込めて作るが、いつも行列のできる料理店よりも、料理人の顔は見えなくてもつねに安定してオーダーが運ばれて来るレストランが生き残ったという感じであろうか。
顔が見えないというのは言いすぎかもしれない。本誌に別の連載を抱えながら、良質の作品を送り出す漫画家も中にはいる。特にえぐちゆうは「鏡の中の女」で、コミックならではの伏線を張って読者をうならせた。
ただ、持ち回りでコミカライズしている弊害が作品に顕著に反映されている。
たとえば金田一耕助が活躍した昭和という時代の空気が作中に再現されていなかったり、警部の顔が加藤武や田中邦衛など、映画でおなじみの人物のコピーにしかなっていないなど、バックボーンが弱いことが、人気を博すことのない要因のひとつではないだろうか。
佐藤千江子のシリーズに、多門修ではなく「多門六平太」がレギュラー出演していることをとっても、原作ファンとしては歯がゆいのである。
短編を原作とした読み切りが中心のためか、「青蜥蜴」(高森夜魚)「迷路荘の怪人」(長尾文子)などの原型作品までコミカライズしており、貴重である反面、ちょっと原作をかじったことのある読者は大いに混乱した。
|
「サスペリア・ミステリー」掲載の横溝コミック一覧
|
金田一もの(青字は原型作品) |
金田一以外 |
長尾文子 |
長尾以外 |
(再録) |
2001/12月号 |
睡れる花嫁 |
蝙蝠と蛞蝓 |
|
2002/2月号 |
迷路荘の怪人 |
|
|
3月号 |
|
人面瘡
蝙蝠男 |
|
4月号 |
|
貸しボート十三号 |
|
5月号 |
|
鞄の中の女 |
|
6月号 |
|
首 |
|
7月号 |
不死蝶 |
|
|
8月号 |
夢の中の女
|
|
9月号 |
青蜥蜴
|
|
10月号 |
|
鏡の中の女 |
彫物師の娘(佐) |
11月号 |
|
傘の中の女 |
社長邸の怪事件(三) |
12月号 |
犬神家の一族 |
瞳の中の女 |
|
2003/1月号 |
柩の中の女 |
半分鶴之助(佐) |
2月号 |
魔女の暦 |
|
3月号 |
赤の中の女 |
|
4月号 |
猫館 |
お玉が池(佐) |
5月号 |
|
壷の中の女 |
女難剣難(佐) |
6月号 |
本陣殺人事件 |
不死蝶 |
|
7月号 |
|
お時計献上(佐)
まぼろし小町(佐) |
8月号 |
|
|
9月号 |
|
犬神家の一族 |
|
10月号 |
獄門島 |
|
|
11月号 |
女王蜂 |
|
12月号 |
|
|
2004/1月号 |
|
|
2月号 |
|
|
3月号 |
|
花園の悪魔 |
|
4月号 |
悪魔の手毬唄 |
瞳の中の女
壷の中の女
首 |
|
5月号 |
トランプ台上の首 |
|
6月号 |
|
|
7月号 |
雌蛭 |
|
8月号 |
|
|
9月号 |
|
|
10月号 |
|
|
11月号 |
|
日時計の中の女 |
|
12月号 |
八つ墓村 |
|
|
2005/1月号 |
|
|
2月号 |
|
|
3月号 |
|
|
4月号 |
|
|
5月号 |
|
|
6月号 |
|
|
7月号 |
獄門島
魔女の暦 |
|
8月号 |
|
|
9月号 |
|
|
10月号 |
|
死神の矢 |
|
11月号 |
|
|
|
12月号 |
|
|
羽子板娘(佐) |
2006/1月号 |
|
|
|
2月号 |
鴉 |
|
|
3月号 |
|
|
幽霊姉妹(佐) |
5月号 |
|
八つ墓村
|
|
|