「《ホテル・ミカド》の殺人」芦辺拓 オススメ度★★☆ |
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1933年、サンフランシスコの一流ホテルで起こった奇怪な事件。大日本帝国軍人が娼婦を射殺し、その後ハラキリをして自ら命を絶ったというのだ。
当地に居合わせたホノルル警察のチャーリー・チャン警部と、私立探偵サム・スペードは、共同して捜査にあたるが、そこへふらふらと飛び込んできたのが、東洋人で麻薬中毒の、ホテルレストランの皿洗い、コフスキー(東洋人なのになぜロシア系の名前かは、読んでのお楽しみ)だった。
金田一耕助にとっては、なんとも豪華なデビューだが、残念ながら、在留邦人の鼻つまみが、一夜にして英雄に祭り上げられる質の事件ではない。
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「明智小五郎対金田一耕助」芦辺拓 オススメ度★★☆ |
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昭和12年11月、大陸での用事を済ませ、帰京の途についていた名探偵明智小五郎は、大阪の商家で起きた殺人事件の記事を読み、その"真相"に疑問を抱く。報道では、留学先のアメリカで難事件を解決し、現地で英雄に祭り上げられた金田一耕助という若き同業者が、みごと"解決"したことになっているのだが……。
「本陣殺人事件」「怪人二十面相」と、ともに大事件を手がける直前、二人の名探偵の軌跡がクロスした瞬間を捉え、推理を競わせる手段はあざやかである。
上の「《ホテル・ミカド》の殺人」の続編の形式をとり、なぜ「在留邦人の鼻つまみが、一夜にして英雄に祭り上げられる質の事件では」なかったはずの解決が、現地で喝采を浴びたかについて言及していることが、このレビューに対する目くばせのように感じられて嬉しい。
ちなみに、本作とTOKIOの松岡昌宏と長瀬智也でドラマ化された「明智小五郎vs金田一耕助」とはまったく無関係である。
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「「正史」は知らない」井口泰子 オススメ度☆ |
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『本陣殺人事件』にモデルとなる事件があった。それを横溝以前に小説に仕立てた作品が存在するという告発のハガキから端を発し、そのまた真贋騒動へと物語は発展していく。
まさに「横溝正史」はあずかり知らぬ事件である。
ただし、作中に登場する、社会派推理小説全盛期の昭和40年、横溝正史の「本陣殺人事件」を一挙掲載した推理小説専門誌は実在する。作者の井口泰子は、「本陣」の掲載を敢行した担当者本人。つまり、本作は作者の実体験をもとに書かれたミステリである。
今となっては、当時の状況を知る資料としての価値が高くなってしまった一作である。
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『GEN 『源氏物語』秘録』井沢元彦 オススメ度★☆ |
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角川書店50周年を記念して、書き下ろされた作品のひとつ。主人公はなんと角川書店設立者の角川源義!
昭和16年、角川源義は、「源氏物語」多数作者説を証明する古文献をめぐる殺人事件に巻き込まれていた。
「道行では仕方がない」という、どこかで聞いたような文句に悩まされる源義の前に現れ、貴重な助言を授ける不思議な兵隊は一体何者――?
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「金田一耕助本当に最後の事件」石上三登志 オススメ度★☆
(「奇想天外」1978年11月号収録)
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フィクション・エッセイとあり、厳密には小説ではない。
刊行されたばかりの『病院坂の首縊りの家』は、金田一が失踪する根拠が薄弱である、と疑問を投げかける筆者の前に、まるで小説中の名探偵がそのまま抜け出てきたような小男が現れ、意外な物語を話しはじめる。金田一耕助本当に最後の事件は、由利先生と知恵比べを行なう、その名も「獄門島ふたたび」なる大長編だというのだ。
なるほど、そんな金田一ものなら読んではみたいが、競演する由利先生にとっては、最後の事件まで金田一のダシに使われて酷ではないだろうか。また、せっかく獄門島を舞台としながら、横溝特有の土着的な封建社会に根ざす悲劇ではなく、推理合戦のための連続殺人になってしまうのも解せない。
所詮、「獄門島ふたたび」などという小説は、一読者の勝手な妄想にすぎないのだろう。
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『探偵の夏あるいは悪魔の子守歌』岩崎正吾 オススメ度★★★ |
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当HPをアップしたときに、さまざまな方から励ましのメールをいただいたが、中でも「何故この小説に触れないのか」というお叱りを、実に多くの方から受けた。
これほどオリジナルのファンから支持を得たパロディが、かつてあったであろうか?
本作に金田一耕助は登場しない。しかし、事件の舞台設定たるや、『犬墓島』にも引けを取らない本歌取りのオンパレードなのである。
「八鹿村の子守歌」どおりに殺される村人たち、獄門寺の了念和尚、鬼首峠ですれ違うおりん婆さん、病院坂に本陣川、古谷、石坂、渥美、西田と、どこかで聞いた名前の刑事たち。
そこには、横溝正史に対する限りない愛情が、まさにあふれ出んばかりに描かれている。「セイシの次はセイゴだ」と、自らを横溝正史の後継者として位置づけ、社会派に対する「田園派」を名乗る岩崎氏の今後の活躍に期待したい。
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「冷ややかな密室―脇本陣殺人事件」折原一 オススメ度★☆ |
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北関東の片田舎白岡町、脇本陣の末裔一本柳家が住む屋敷で、新婚初夜の新郎が不審な死を遂げ、新婦が失踪するという事件が起こった。しかも犯行現場の離れは、内側からガムテープで厳重に目ばりがしてあるという、密室状態にあったのだ。
本家『本陣殺人事件』からシチュエーションと舞台を借り、内側から目ばりをされた部屋での殺人という、まったく別種の密室を構成した折原氏の意欲は評価したい。
でもねえ、パロディ仕立てであることと、伏線がしっかり書かれていることから、途中でネタが割れる可能性も高いのよ。
他の作品でも、「まさかこんなオチじゃないよね」というのが真相だったりすることが、折原氏の場合あるからねえ。
なお、後に「折原といえばトリッキィな文体」といわれる片りんが、本作でもかいま見える。これも『本陣』へのオマージュのひとつか。
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「本陣殺人計画 横溝正史を読んだ男」折原一 オススメ度★☆ |
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上記の「脇本陣殺人事件」執筆から14年の歳月が流れて、折原一が再び『本陣殺人事件』のパロディに挑んだ。
今回は、密室殺人というテーマ自体に対するパロディになっており、密室のトリックにはあまり重点が置かれていない。っていうか、この程度のトリックで『密室殺人大百科』に載せちゃってもいいの? と首をかしげたくなるような、おざなりなものである。
『本陣殺人事件』という、国内密室ミステリの最高峰を下敷きに、密室という形式を崩壊せしめたのが、唯一の収穫か。
「密室はパロディ」という、折原氏の信念には忠実な作品と言えようが、『密室殺人大百科』編者である二階堂黎人氏は、頭を悩ませたに違いない(笑)
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『探偵作家 江戸川乱歩の事件簿 ―ミイラと旅する男』楠木誠一郎 オススメ度★ |
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題名こそ江戸川乱歩の名を冠しているが、むしろ乱歩は自己嫌悪の末、憂き世から卓越した存在として書かれており、実質はワトスン役の横溝正史が出ずっぱりである。
時代は昭和3年、上野の博物館で怪盗から盗難予告の出ていたメキシコのミイラが、若い女性の首なし死体とすりかわっていたという猟奇的な幕開けは、乱歩と正史が活躍するにふさわしい。
だがその後がいけない。
首なし美女(!)とミイラ紛失の二本立てのナゾを追いきれず、新たに死体が発見されるに及んで、だんだんミイラ探しはどうでもよくなってきて、謎解きの焦点が定まらないままあれよあれよと急展開を迎え、いつの間にやら終わってしまっていた。
後年の横溝は、結核の療養生活から来る乗り物恐怖症や、血を連想させる赤いものを嫌ったという性癖が顕れ、事件に巻きこむにはいささか不便であるため、喀血前の昭和3年に材を取ったのは研究の成果といえよう。
だが、その他の架空の登場人物、特に乱歩・横溝と行動を共にする恩田警部、三宅刑事の造形があまりにステロタイプで、全体が安っぽくなってしまったきらいがある。
楠木氏はほかにも「潔癖症探偵泉鏡花」三部作など実在の人物を登場させたミステリを多数発表しているが、本作と同レベルなら触手が伸びないなあ。
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『夢二殺人幻想 ―江戸川乱歩の事件簿2』楠木誠一郎 オススメ度★ |
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探偵小説の開祖、江戸川乱歩と横溝正史を登場させた前作が好評だったのか、早くも続編が出版された。
ミイラや首なし死体と猟奇に走りすぎた前作に比べ、本編では乱歩や正史が竹久夢二、伊藤晴雨など実在の人物と交錯するという、オーソドックス(?)なパスティシュの作法を踏襲している。
ただ、全体のバランス構成がいびつなのは前作同様。実在の人物を駒として動かすのに必死で、その他の登場人物や展開をその合間に転がすのがやっとという状態なのである。
巻末の参考文献を見ても、勉強熱心な作家であることは理解できるが、それだけの労力に対して作品がペイしていないもったいなさを感じる。
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『帝都<切り裂きジャック>の殺人 ―江戸川乱歩の事件簿3』楠木誠一郎 オススメ度★ |
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上野博物館の怪盗(怪人二十面相)、責め絵のモデル殺人(陰獣)と続いた猟奇事件も、いよいよ真打ち切り裂きジャックの登場となった。
乱歩先生は刺激を受けやすい性格なのか、事件解決と、それらによく似た作品の発表時期が似通っているのが、このシリーズのミソなのだが、強いて本作が乱歩作品に影響を与えたとするなら、「蜘蛛男」をはじめとする通俗長編であろうか。
それならそれで、乱歩以上に感受性の強かったであろう横溝正史だって、一連の事件に触発された作品を発表してもよさそうなものだが、残念ながらそのような展開にはならない。
それにしても、命の危険があるから部屋から出てはいけないと言われた関係者が、外でメシを食いたいからという理由だけでホテルを抜け出して、案の定殺されてしまう展開はいかがなものか。
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『「パノラマ島奇譚」殺人事件 ―江戸川乱歩の事件簿4』楠木誠一郎 オススメ度★ |
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乱歩と正史の探偵譚もいよいよ最終話。
これまでもいかにも乱歩が好みそうな、そしてその後自作のモデルにしそうな事件を描いてきたが、今度は逆に、乱歩が発表した小説「パノラマ島奇談」をそのまま再現した小島で連続殺人が起きるという仕組み。
シリーズも4作となると、乱歩や正史の人物像は実在から離れ、しかもキャラ立ちしていないので、それぞれの活躍を期待して読む側にとっては、読み進めるのがたいへんつらい。この辺りが引き際としても適切だったのかもしれない。
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『芥川龍之介殺人事件』神門酔生・三宅一志 オススメ度☆
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なんでも実話らしい(笑)。
作中、アントニー・ギリンガムに似た青年(しかも関西弁!)が、探偵らしい行為で芥川を自殺に追い込んだ原因を探っていたかと思えば、実は敵国の密偵だったことがバレ、逃亡。戦後、横溝正史に取り入って金田一耕助という名前で活躍したというのがオチ。
別に読まなくても人生は楽しく過ごせるさ!
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『桑港の幻』琴代智 オススメ度★☆ |
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昭和8年のサンフランシスコ。建物の3階から落ち、記憶を失った日本人留学生、岩見沢勇に殺人容疑がかけられる。孤立無援の中、彼は嫌疑を晴らすことが出来るのか。そもそも彼は無実なのか!?
えっ、金田一さんはどこに出てくるかって?
アナタ、一体どこを見ているんです。もう一度、作者名をよっくご覧になってくださいな。
サンフランシスコでの事件ということは、『本陣殺人事件』にある「たちまち一種の英雄に祭りあげられた」事件なのだろうが、彼が祭りあげられるような解決ではない気がする。
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「『悪魔の手毬唄』殺人事件」小林久三 オススメ度?
(「幻影城」1976年1月号収載)
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オススメするも何も、『悪魔の手毬唄』が映画化されることになり、スタッフが鬼首村のロケ地を探す途中で殺人事件に遭遇したというだけで、原作とは一切関係なし、金田一耕助の「き」の字も出てこないのだから、評価のしようがない。
「幻影城」の入手も困難になりつつあるし、パスティシュとしては特に読む必要はないのでは?
余談だが、驚いたことに本作品は、1987年に火曜サスペンス劇場で制作・放映された。出演は近藤正臣・沢田亜矢子・松橋登ら。
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『花嫁川柳殺人事件』斎藤栄 オススメ度★ |
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タロット日美子シリーズ第二作。
副題に「『本陣殺人事件』マル殺」とあるように、横溝正史の『本陣殺人事件』を斎藤氏流に料理した作品。『本陣』のトリックを真似て自殺すると宣言した登場人物が、雪に降りこめられた密室の離れで死んでいるという不可能犯罪を扱っている。
しかし、そのトリックたるや『本陣』の緊密さ、華麗さには到底追いつかない代物である。だいたい、『本陣』の妖しい琴の調べに対して『花嫁川柳』では被害者自ら唄って録音した『雪のふる街を』がエンドレスで流れているという設定からしていただけない。これはおどろおどろしいのではなく、ただ根が暗いだけだ。
他にも、被害者が川柳に託した暗号や、目次を眺めていると浮かび上がってくる真相など、意欲は買うが、出来映えはとても認められない。
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『犬猫先生と金田一探偵』斎藤栄 オススメ度☆ |
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犬猫先生シリーズ第二作。まったく懲りていない(笑)
アメリカでノンビリと余生を送っているはず(?)の金田一耕助氏。しかし、今やアメリカは国をあげての嫌煙ブーム、ヘビースモーカーの金田一先生(だったっけ?)としては、日本に逃げ帰るしか手がなかったというのが帰国の理由。
主人公が犬猫「先生」なので、作中ずっと金田一「探偵」と呼ばれているのが、違和感を覚える。しかも金田一「探偵」はあろうことか推理ミスを犯し、犬猫先生が奔走して真相を突き止める情けなさ! こんなの金田一さんじゃないやーい!
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「凡人殺人事件」桜井一 オススメ度★★ |
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東京駅から電車で86分の場所にある八六分市、そこではなぜか、古今東西のミステリに酷似した事件が頻繁に発生するのであった。
今日も今日とて、八六分市の旧家二柳家の当主仁造が、自宅の土蔵の中で無残な死体で発見された。土蔵の扉には厳重過ぎるほどの戸締まりがしてあり、蟻の這い出る隙間すらない。むろん自殺などではあり得ない。
捜査に行き詰まった八六分署の伽羅(キャラ)警部は、友人の私立探偵珍田一珍助に出馬を要請するのであった。
凡人であるが故に、捜査官には思いもよらない方法で殺人を犯す犯人と、凡人であるが故にその方法を見破ることの出来た探偵。恐ろしくもバカバカしい事件の全貌が、今明らかになるのだ! あー、あほくさ(ホメてます・笑)
それにしても本書を原案として作られた2時間ドラマは、ひどかった。原作が活かされているのは田舎の警察って設定だけで、ミステリ・パロディ全部削っちゃったんだもの。
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『少女達がいた街』柴田よしき オススメ度★★★ |
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自分にそっくりな少女との出会い、20年の時を隔てて明らかになる真相、宿命の糸に操られる若者たち。
これは、『病院坂の首縊りの家』についての言葉ではない。柴田よしき『少女達がいた街』のプロットの一部なのである。
柴田氏は本作で、ことさら「血」の因縁について強調して書いてみせた。ここでは触れないが、横溝作品にとって重要な、「血」にまつわるあるファクターまで駆使している。しかしそこに、おどろおどろしさはない。あるのは、昭和47年の時代の息吹と、それから20年後という残酷なまでの時の重みである。
そこには、金田一耕助はもちろん、横溝正史の名前すら一度も登場しない。だが、本作はまさしく横溝作品に対するオマージュなのだ。
横溝作品ゆかりの登場人物や地名を使用しなくても、そのテイストを継承することはできるという証明を、柴田よしきは本作で実践してみせた。
厳密な意味でのパロディ・パスティシュではないかもしれないが、こんな作品もあるということを、多くの横溝ファンに知ってもらいたく、敢えてリストに加えました。
(本作と横溝作品との意図的な類似性については、柴田よしきさんご本人に確認済みです)
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「茶色い部屋の謎」清水義範 オススメ度★☆ |
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自称・名探偵たちが集められたパーティ会場で、主催者の欲八田(よくはった)こと八田虎造が殺された。招待客の探偵たちは、どうしようもない迷推理を披露するが…。
被害者のあだ名を見てわかるとおり、有名な古典ミステリにのっとって、その屋敷内での殺人に名探偵が挑むという形式をとっている。逆にタイトルの元ネタである「黄色い部屋」との関連はあまり見られない。
探偵たちの中に、和服でもじゃもじゃ頭の素人探偵・金野大地の姿がある。
人が一人殺されたくらいでは調子が出ないと豪語するこの探偵は、まさに金田一耕助のカリカチュアライズ。
世界の名探偵の一人に数えられるなんて、金田一さん、スゴ〜イ(笑)
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『コズミック』ほか清涼院流水 オススメ度? |
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新本格ミステリの行く末は、こんなものなのか、と各界に物議をかもした推理パズルシリーズ。
金田一シリーズとの関わりは、探偵と称する登場人物に、犬神家の末裔と名乗るものがいるだけ。オススメ度は、その犬神夜叉が探偵らしく単独で事件を解決できた暁に、改めて評価します。
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『犬墓島』辻真先 オススメ度★★☆ |
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『本陣殺人事件』『獄門島』『蝶々殺人事件』などのパロディを随所に折り込み、なおかつポテト&スーパー、瓜生慎&真由子、迷犬ルパンなど辻真先のシリーズキャラクターを一堂に集めた大サービス作品。
辻氏の迷犬ルパンスペシャルには、他にも『蜘蛛とかげ団』『線と面』など古今のパロディがあり、それぞれファンをうならせるような凝り方をしている。
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「金田一もどき」都筑道夫 オススメ度★★☆ |
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ミステリ好きが高じて、作中の名探偵になりきってしまう茂都木宏と、かげからご亭主を支えて、事件を解決に導く奥さんの連作短編集。本編では舞台をハワイに移し、同じような趣味のチャーリー・チャンもどきさんと「名探偵の競演」を繰り広げている。
都筑は、横溝正史との対談で「金田一のパロディはどんどんやってください」とお墨付き(?)をもらっており、それが作品に結実したものである。
オススメ度が高いのは、『名探偵もどき』自体の面白さに加え、本編のラストではアッと驚くような仕掛けが用意されていることを考えあわせて。
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『銀河鉄道の惨劇』吉村達也 オススメ度★☆ |
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朝比奈耕作の「惨劇」シリーズである。
「銀河鉄道の惨劇」という作品を書くために、取材旅行に北海道を訪れた朝比奈耕作は、ふとしたことから牧場主の金田老人と知り合う。コースケという名の馬を操り、英国風のダンディーな格好をした金田老人は、朝比奈耕作も一目置く論理的思考の持ち主だった。
吉村達也が、金田老人を金田一耕助の後身として書いたのは、間違いない。なにしろ100ページあまりに渡る事件の解明を語るのは、朝比奈耕作ではなく、金田老人なのだ。たとえ推理力が優れていようと、シリーズ探偵を差しおいて、一登場人物に解決場面をゆだねるのはきわめて異例。作者の中で、金田老人イコール金田一耕助という認識があってこそ、活きてくる破格の扱いなのだ。
だから「銀河鉄道の惨劇」というタイトルから事件がドンドン離れていっちゃっても、文句を言ってはいけないのだ。
どうにも共感しがたい、作者独特の日本人論も健在(笑)
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