Kindaichi Kousuke MUSEUM

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金田一耕助視聴覚室

金田一さんの現場検証

展示室:木魚氏の蒐集品

木魚のおと

リンクターミナル


 
 

金田一耕助図書館4F
横溝正史研究本の世界

 
「金田一耕助図書館」と銘打っておきながら、横溝研究本について語らずしてどうしましょう。
研究本は、横溝作品の読み方を導いてくれる案内人であり、横溝ブームの影響を語るには欠かせない証人でもあります。
このコーナーでは、これまでに出版された主な横溝研究本について、資料としての読みどころや、刊行時の横溝作品をとりまく背景などを紹介します。

長々と書いてあって、全部読むのはしんどいな、という方は、各コメントのラスト一文が意外とまとまった総括になっているので、そこだけ読んでも差し支えないと思われます(笑)

なお、以前の同人誌コーナーはこちら
 
 
 
 
角川メディアハウス
発売日:06/12/31
価格:1680円
 
 詳細データ
 (Amazon.co.jp)
金田一です。

石坂浩二 
観てから読むか、読んでから観るか!? 金田一耕助の謎がいま解ける!

金田一耕助を語れば<人生>が見えてくる!「金田一の鞄の由来は?」から「金田一はナゼ、犯人をつかまえないの?」といった永遠の謎まで、『犬神家の一族』主演俳優自らが縦横無尽に綴る、初の<金田一耕助論>!

いま、このタイトルで本を出しても誰からも文句が出ないのは、著者くらいであろう。
金田一耕助=石坂浩二というすりこみもさることながら、石坂金田一といえばこの「金田一です」というセリフが真っ先に思い浮かぶファンも多いと思われる。
(ちなみにこれがもし古谷一行だったら、「ぼく、金田一耕助です」というタイトルになったに違いない。このニュアンス、わかります?)

30年ぶりのリメイク「犬神家の一族」で、再び金田一耕助を演じた著者が、どのような心情で役に取り組んだかを描いたエッセイ。
公開前のインタビューで語った内容も含まれているが、それでも一読の価値あり。
面白いのは、それが役者・石坂浩二の演劇論となり、同時に金田一耕助論として立派に成立してしまっていることである。

「金田一耕助は神の使いである。神だから、彼は連続殺人を阻止しない」
これは市川崑監督が映画化に際して金田一耕助に与えた有名な設定である。
では、それを実際に演じるにはどうすべきか?
映画の宣伝番組では、「天使なんて見たことないから、役作りに困った」とコメントしていたが、そこは名優石坂浩二、役作りのヒントはシナリオにある、とシナリオを読み込んでいく。
すると、そんじょそこらのタレント役者の通り一遍の解釈では、とても到達できないであろう金田一耕助の「秘密」が、次々と明らかにされるのであった。

著者いわく、「金田一耕助は、かなり育ちがいい」上に、犯人にどう「引導を渡す」かを考えているという。そして、モデルはやっぱり「市川崑監督」自身なのだとも。
これらが単なる思いつきで終わらないのが、本書のすごいところ。著者は、ただマニアックに金田一耕助のプロフィールを想像して楽しんでいるのではない。自分自身が金田一耕助となって、みずから突き詰めて考えた金田一像を演技に反映させなければならないのだ。

新旧犬神家のどちらでもけっこう。また映画を見る前に本書を読んでも、映画を見終わってから本書を読んでも自由。
必ずや、「あのシーンにはこんな意味があったのか!」とひざを打つことうけあいです。
(物語を相当深い箇所まで説明しているので、一度は映画を見てから本書を読むことをオススメします)
金田一が推理を語るときに必ず現れる「影」の正体、脚本には描かれていない、金田一VS真犯人のもうひとつの駆け引き、そして彼の「育ちのよさ」を象徴するシーンまで、本書には、アナタの知らない「犬神家の一族」が描かれている。
オススメ度  ★★★★(4点/なにしろ金田一本人が書いているのだ)

 
宝島社
発売日:06/12/05
価格:1200円
 
 詳細データ
 (Amazon.co.jp)
僕たちの好きな金田一耕助
別冊宝島1375
 
あの名探偵の物語 全77作品を完全解説!!/戦慄すべき怪異と狂気…事件の陰に見ゆるは人の業

映画「犬神家の一族」公開にあわせて、金田一関連商品が次々と発売されている。
その中でも目玉商品的存在なのが、この「僕たちの好きな金田一耕助」だろう。

「金田一耕助The Complete」が、昭和50年代の横溝映画ブーム以来の「映像から入った金田一ファン」をターゲット層としていたのに比べ、「僕たちの好きな金田一耕助」は、原作をミステリとして解説するという、至極まっとうなアプローチをとっている。
「金田一耕助The Complete」では紹介程度にとどめられた原作全編解説は、それがこの「僕たちの好きな〜」シリーズの売りとはいえ、壮観である。
全作品のあらすじ、詳細な解説、作中の名言集など、どのページを開いても原作への言及が充実しており、お腹いっぱいになる。
個人的には、作品ごとに金田一耕助の動向を記した金田一チェックが、かなりツボ。ミステリとしての横溝ファンと、金田一耕助ファンそれぞれの読者にむけて、きちんとバランスをとっている。

もちろん新「犬神家」をはじめとする映像作品へのフォローも忘れていないが、あまり深く踏みこまなかったのは正解だろう。
本島幸久の描き下ろしコミックも、映画「金田一耕助の冒険」へのオマージュが込められていて楽しい。

その一方で、見開きで紹介されている15長編に添えられたイメージイラストは、はっきりいってデカすぎ。
1/2ページものスペースをさくなら、たとえば石川三千花のようにイラストがコラムとして成立しているとか、ひとコマの中でオチがついているとか、工夫が欲しいところ。単なる挿絵なら、この半分のサイズで十分。
カラーページの「昭和5X年の金田一」とか「事件マップ」などの見開きのカラーイラストはもっといらない。岡山惨劇マップなんて、もはやマップですらないし(笑)
データや記述内容に、わずかながら誤謬があるのも気になった。トヨエツの主演映画が「悪霊島」になっていた「金田一耕助The Complete」の初版に比べたら、ホントに重箱の隅レベルなんだけど、本は形として残るから、後々修正が厄介なんだよね。

とはいえ、金田一ファンなら押さえておきたいマストアイテムに変わりはない。
オススメ度  ★★★★★(5点/本書を買わずして何を買う?)

 
メディアファクトリー
発売日:04/06/07
価格:1575円
 
 詳細データ
 (Amazon.co.jp)
金田一耕助The Complete ―日本一たよりない名探偵とその怪美な世界
ダ・ヴィンチ特別編集 (6)

小嶋優子・編
誕生後60年を経てもくり返しドラマ化され、5500万人の文庫読者を持つ金田一耕助。なぜ我々はこんなにもこの男の物語に惹かれるのか? 初めての総合研究本。主要10作品「犯人・動機」袋とじつき。

本書刊行のきっかけは、DVDボックス「金田一耕助の事件匣」が爆発的な売行きを示したことだという。
昭和50年代の横溝ブームからすでに30年近くたちながら、今なお根強い人気を誇る金田一耕助とは、一体どんな男なのか。そんな疑問が、はじまりだった。
そのため対象とする読者層は、今までの研究本とは異なり、ミステリファン・横溝ファンよりも、「なんとなく好き」という潜在的な金田一耕助ファンを念頭に置いていた。
さらに、本書が発行された「ダ・ヴィンチ特別編集」のシリーズは、サブカルチャー色が強く、金田一耕助をミステリという観点からではなく、映画やドラマを通じて一般に浸透していった「文化」として捉えようとしたため、ミステリ評論や深い金田一耕助研究が書けると意気込んでいた執筆陣はおおいに戸惑ったという。
いくら古典的作品とはいえ、推理小説の真犯人と動機を、袋とじで掲載してしまおうという発想は、ミステリ畑の編集者では思いもよらなかったことであろう。
(そして、現在に至るまで同様の企画が行われたという話は聞いたことがない。いかにぼうきょ…、いや冒険で画期的な企画だったかがわかる)

当サイトの管理人である木魚庵も本書の執筆に協力しているが、サブカルという括り方はともかく、本書の切り口と「金田一耕助博物館」の方向性とがほぼ一致していたこともあり、楽しんで原稿を書くことができた。それどころか、あまりに企画内容や他の原稿に口をはさみすぎるので、最後には全体監修という肩書きまで頂戴してしまった、いわくつきである。
1ページ1ページに悲喜こもごものエピソードが存在するが、それはまた別の機会に紹介できればと思う。
金田一耕助については、与えられた枠内では書きつくせない部分もあり、続編の企画があればいつでもはせ参じる用意はあるのだが、メディアファクトリーさん、いかがでしょう?

なお、本書をお持ちの方は、ぜひ一度、カバーをはずして見ることをおすすめする。新しい発見があるかもしれない。
オススメ度  ★★★★★(5点/自画自賛)

 
角川書店
発売日:02/05/25
価格:2100円
 
 詳細データ
 (Amazon.co.jp)
横溝正史に捧ぐ新世紀からの手紙

角川書店編
横溝正史生誕100周年記念本。作家たちからのラブレター

日本一有名な探偵・金田一耕助を生み出した横溝正史氏生誕100周年記念本。現在活躍中の作家・著名人が語る横溝作品の魅力をたっぷり見せる1冊!横溝初心者も横溝フリークも必見の書。

2002年、横溝正史の生誕百年記念として、かつて横溝ブームを送り出した角川書店から発行された横溝正史ガイドブック。
「横溝正史に捧ぐ」と言っておきながら、結局採り上げられているのは金田一もののみである。もっともこれは、横溝ブームがすなわち金田一耕助ブームに相違なかったのだから、ある程度しかたのないことかもしれない。

ミステリ、映画、コミックなど各分野で活躍している、「横溝ブームの申し子」たちのインタビューや寄稿、対談の合間に、金田一耕助に関するコラムが挿入されており、内容盛りだくさんに見えるが、むしろ散漫。
『18人の金田一耕助』の後では、「映画になった金田一耕助」のスチールももの足りないし、「角川文庫初版カバー絵集」は、レイアウトに懲りすぎて1枚1枚が均等に見られない時点で、目的を見失っている。
監察医上野正彦による、殺害方法から「犬神家の一族」の犯人像をプロファイルする原稿も、切り口としては興味深いが、何も横溝ガイドブックじゃなければ読めないものでもない。

「幽霊座」に至っては、「現行の文庫では読めない金田一もの」という事情があったらしいが、今さらこのような本に収録されるほど珍しい作品ではない。そもそも故中島河太郎いわく、「幽霊座」は横溝正史自身が出来に満足せず、全集への掲載をためらったという。それが金田一ものの代表として再録されているのだから、なんとも皮肉な選択である。

本書での収穫は、岩井志麻子独特の語り口で岡山めぐりができたことと、横溝亮一氏の寄稿、それにささやななえこ「百日紅の下にて」、獄門島・鬼首村の地図が付随した横溝正史インタビュー「金田一耕助はなお消えず」の再録くらいか。再録ものが目玉では、とても「新世紀からの手紙」などと言える内容ではないのではなかろうか。
オススメ度  ★★(2点/定価で買う必要はない)

 
光栄
発売日:98/03/06
価格:2100円
 
 詳細データ
 (Amazon.co.jp)
18人の金田一耕助

山田誠二
映像化された全ての金田一耕助を紹介。金田一耕助役俳優18人の写真や映画のスチール、エピソード、パンフレット、ポスター等を収めたファン必携のメモリアル本。

『金田一耕助99の謎』他の原作ナゾ本に遅れること約1年半、これ以上柳の下のドジョウを追い続けたら、マニアックな作りにせざるを得ないところを、映像作品からのアプローチという新たな切り口で、さらなる読者開拓を目指した姿勢は、高く評価できる。

本書の見どころは、なんといっても未公開スチールをふんだんに使った作品紹介だろう。その分量たるや、一体どこから入手したのだろうと驚かずにはいられない。
そういった写真が見られるだけでも、本書はたいへん貴重な金田一耕助の研究資料となるはずである。ファン必携の1冊。

ただし、市川崑を徹頭徹尾市川
と表記したり、ところどころに知恵蔵金田一なる珍妙な探偵さんが登場するのは、ご愛敬にも程がある。
また、著者の山田氏が原作ファンでない悲しさから、記述に若干の誤りが存在するのも惜しい。
たとえば、片岡鶴太郎のドラマシリーズ「女怪」には、クレジットされていないが「霧の中の女」という原作が引用されている。ドラマに登場する村上ユキと男娼・テッちゃんなども「霧の中の女」の登場人物なのだが、本書ではこれを「(ドラマの)オリジナルキャラクター」としているのは勇み足。
他にも、放送日や配役などに誤植や間違いが多く、データベースとしては他の資料と照合しなければ信用できないレベルなのが残念。
オススメ度  ★★★★(4点/写真を見るだけで楽しい)

 
ワニブックス
発売日:96/12/25
価格:1050円
 
 詳細データ
 (Amazon.co.jp)
対決! 金田一家の一族

W・K・K(ダブル金田一研究会)編
名探偵金田一耕助と、漫画「金田一少年の事件簿」でその孫という設定で活躍するはじめ。この2人の名探偵を徹底比較し、共通性、相違点、探偵スタイルの違い、力量などを検討する。


「金田一少年」ブームに便乗して出版された、ジッチャンの研究本第2弾。

以下現在執筆中。
オススメ度  ★★★★★(5点/持っていて損はなし)

 
飛鳥新社
発売日:96/12/11
価格:1020円
 
 詳細データ
 (Amazon.co.jp)
金田一ファミリーの謎

金田一ファミリー研究会(浜田知明・中島トビオ)編
ジッチャンはホントに名探偵だった? オフのときのジッチャンの生活ぶりは? 天才少年一の物語はここからはじまっていた…。一も知らないジッチャンの秘密初公開。

「金田一少年の事件簿」の爆発的人気と、市川崑久々の金田一映画「八つ墓村」公開を受けて、「金田一少年」の謎本の形式を取りながら、ジッチャンである金田一耕助についての考察をメインに据えた研究本が立て続けに刊行された。

以下現在執筆中。
オススメ度  ★★★★★(5点/これが最新の金田一研究)

 
二見書房
発売日:96/11/25
価格:525円
 
 詳細データ
 (Amazon.co.jp)
名探偵・金田一耕助99の謎

大多和伴彦
金田一耕助が『本陣殺人事件』で初登場してから、今年はちょうど五十年にあたる。本書では、耕助が解決してきた78の事件を通して、その秘められた素顔に迫る。また、金田一耕助の生みの親である横溝正史についても、秘められたさまざまなエピソードを紹介。さらに、映画化・テレビ化された作品について特別に一章を割いて、歴代の金田一耕助を演じた俳優たちと作品のエピソードを発掘してみた。

現在執筆中。
オススメ度  ★★★★★(5点/必携)

 
角川書店
発売日:96/10/26
価格:1020円
 
 詳細データ
 (Amazon.co.jp)
金田一耕助の事件簿
ニュータイプフィルムブック
 
映画「八つ墓村」本編秘蔵フォト156点を収録。金田一耕助映画&テレビドラマデータを満載した一冊。今、新たなる金田一耕助が生まれる。

東宝映画「八つ墓村」公開に合わせ、映画館内でも販売できるようなサイズで発行されたフィルムブック。アニメブームの頃に流行った、映画のフィルムを漫画のコマのように配置して、誌面に物語を再生するアレである。
本書はさすがに漫画のようには構成されてはいないが、「八つ墓村」のスチール写真を、シナリオ(抜粋)に沿ってふんだんに並べ、物語がわかるようになっている。
真犯人の指摘からラストシーンまでしっかりフォローしているので、本書があれば映画本編を見ずに済むという特典つきである(笑)

上記のフィルムブックで約半分。残りの半分が実は目玉なのだ。
(といっても、約16ページにわたる豊川悦司の魅力に迫った文章は除く)
「映画の金田一耕助たち」「テレビドラマの金田一耕助たち」と題された文章では、映像作品についてくわしく書かれており、今でもじゅうぶんに資料価値がある。
特に映画は、片岡千恵蔵「三本指の男」から鹿賀丈史「悪霊島」まで、一本ずつスチール写真と解説つきで、中でも石坂浩二「犬神家の一族」以前の映画の解説は、短いながらも『18人の金田一耕助』より客観的で読みごたえあり。

「横溝正史の映画世界と小説世界」では、三回目の映画化となる「八つ墓村」を、動機とラストシーンをキーワードに映画と原作との相違点を比較している。文章自体は大まかにすぎるが、横溝作品研究の切り口の見本としては面白い試みである。

現在品切れのため新刊で買うことは出来ないが、この後半の文章のためになら、古本で定価の半額を払って購入しても惜しくはないとおすすめする次第。
オススメ度  ★★★★(4点/ただし安く買うこと)

 
毎日新聞社
発売日:88/08/10
価格:1260円
 
 詳細データ
 (Amazon.co.jp)
シャーロック・ホームズと金田一耕助

実吉達郎
動物文学者でシャーロッキアン(ついでにミュージシャンさねよしいさ子の実父)である実吉達郎の、ホームズ研究書の第三冊。
あとがきにあるとおり、本書のテーマは「ホームズと日本、中国」であり、横溝作品及び金田一耕助に関する記述は、全七章のうち二章を割くにとどまる。
内容は、由利先生や金田一耕助の人となり、ホームズとの共通点、そして横溝作品中に登場したホームズについてなどの考察である。
つまり、シャーロッキアン向けに横溝作品を紹介する文章であり、魅力的なタイトルに想起させられるほど金田一ファンに収穫があるものではない。

作中の固有名詞から、「塙侯爵一家」冒頭のロンドンの描写がホームズを参考に書かれたものであると指摘した部分は、さすがシャーロッキアンならではである。
オススメ度  ★(1点/必要なし)

 
パシフィカ
発売日:79/11/12
価格:1300円
 
 詳細データ
 (Amazon.co.jp)
金田一耕助
名探偵読本8

中島河太郎・編

シャーロック・ホームズ、メグレ警視など歴代の名探偵の研究書シリーズの一巻として、日本の名探偵代表で登場した。
しかし、当時の横溝ブームは若者世代が主流で、ブームに際してあらためて金田一シリーズを再読している作家・評論家が意外に少なく、原稿依頼に苦労したとある。
それでも、文芸評論家や横溝正史と親交のあった作家など、時宜を得た執筆陣が揃ったのは、編者中島河太郎の功績である。

本書収録の「扉の中の女」は、三回連載だったのに、真ん中の第二回をスッポリ抜かして、一・三回のみ収録している。
同じく本書収録の「悪霊」(「首」の原形作品)の挿絵が、なんと上下逆さになっている。
これらを見ても、刊行までの準備期間に余裕がなかったことがうかがわれる。

刊行時には、「死仮面」の連載一回分が見つかっていなかったため、作品の存在を序文で触れるにとどめ、事件簿などにも「死仮面」は記載されていない。
それにも関わらず、本書収録の、中島河太郎編さん「金田一耕助の事件簿」は、今なお一級資料として引用され続けている。
中島河太郎の名前がそれだけ偉大だったから、というのももちろんあるが、実際は一冊の本として成果が残ったのがいちばんの強みだ。

中島河太郎は、本書の3年後、「野性時代」に金田一耕助の事件簿の改訂版を掲載している。本書では不自然だった事件の年代の移動や、「死仮面」の追加など、明らかに完成形に近づいているにもかかわらず、「野性時代」版事件簿が参照されることはまずない。
雑誌自体の入手が困難だからである。
現在では、横溝正史研究家の浜田知明が、より進化した事件簿リストを発表(それもまた「野性時代」誌にである)しており、中島版事件簿リスト、特に本書のバージョンは叩き台としての使命も終えていると、ここではっきり言い添えておく。

いまだに「名探偵読本」バージョンの事件簿を金科玉条のごとく引用し続けている角川書店は、もっと自社の刊行物に目を通して、勉強してもらいたい。

なお本書の意義として、「夜光怪人」「蝋面博士」などジュヴナイルの改作を行ったという山村正夫の告白を引き出した点は大いに評価される。
オススメ度  ★★★(3点/コレクターなら)

 
青年書館
[1集]
発売日:78/04/10
価格:880円
[2集]
発売日:78/08/20
価格:920円
[新版]
発売日:87/07/31
価格:1380円
 
 詳細データ
 (Amazon.co.jp)
金田一耕助さん あなたの推理は間違いだらけ! 1集|2集|新版

佐藤友之
1巻と2巻から粒よりの事件を選んだ合冊版。推理小説と探偵ゲームが同時に楽しめる本。奇怪な15事件の謎に挑戦し名探偵の推理の盲点をつきながら真犯人を割り出した興味つきない裏づけ報告書。 (新版)

言わずと知れた謎本の元祖、便乗本の開祖。
横溝ファンなら、本書を読んだことがなくてもタイトルだけは知っているといわれるほど、ある意味で話題になった。

原作の推理の矛盾や盲点を洗い直し、ときには小説の結末とは異なる犯人を指摘する試みは、遊戯としてなら面白いが、本書の場合「原作のあら探し」でひと儲けしようという姿勢がありありと見てとれるため、このシリーズの存在を感情的に受け付けない横溝ファンも多い。
著者もまた、まえがきで「たとえ小説の上でも誤った捜査・推理は許されません」と大上段にふりかぶったものだから、よけいにファンの心証を害してしまった。

収録作の一覧は下表のとおりである。
実際には各作品の後に「〜の盲点」とつけられており、通しタイトルとなっている。
1集 2集
悪魔の手毬唄 病院坂の首縊りの家
八つ墓村 本陣殺人事件
獄門島 悪魔の降誕祭
犬神家の一族 悪魔の寵児
びっくり箱殺人事件 仮面劇場
真珠郎 三つ首塔
白蝋少年 夜歩く
黒猫亭事件 仮面舞踏会
蜃気楼島の情熱 幽霊男
金色の魔術師 廃園の鬼
支那扇の女 女怪
広告面の女 不死蝶
三十の顔を持った男 貸しボート13号
トランプ台上の首  
女の決闘  
女王蜂  
赤字は金田一シリーズ以外の作品。
 グレー地は[新版]に再録されたもの
主だった金田一作品は、軒並み毒牙にかけられているのかと思いきや、意外や「悪魔が来りて笛を吹く」「白と黒」「迷路荘の惨劇」などの長編が取り上げられていない。
「金田一耕助の冒険」の連作短編は、俎上に上げるには食い足りなかったのか、一編も入っていない。
その代わりに収録されているのが「広告面の女」「三十の顔を持った男」「白蝋少年」というのは、一体どんな基準で作品を選んでいるのか、首をかしげたくなる。
いくらツッコミやすい作品を優先したとはいえ、盲点を指摘するほど代表的な作品でも、トリッキィな作品でもないと思うのだが。

肝心の、「間違いだらけ!」の指摘内容だが、ひと言で表現するなら「無粋」に尽きるであろう。文学的表現やミステリの約束事にまで生真面目に反論するあたり、著者の人間性がうかがえて興味深い。
また、誤りや牽強付会も多く、たとえば「犬神家の一族の盲点」では、自身が原作から数字の引用を間違えていることに気づかず、登場人物の年齢、ひいては事件の年代に矛盾があると「一人相撲」をとっている始末。
「病院坂の首縊りの家の盲点」の指摘もヒドイ。金田一がアングリー・パイレーツの演奏を聞きに行く場面で、
「由香利が小雪に代わって歌っている――というニュアンスが、ここにはある」ときたもんだ。そんなニュアンス、ないって!(笑)

しかし、まるっきり読む必要のないクズ本かといえば、(まあそう思っている横溝ファンがほとんどだとしても)筆者はそうとは思わない。
一寸の虫にも五分の魂、盗人にも三分の理、目の前に提示された作品を、「疑ってかかる」という姿勢は参考にしてもよいのではないだろうか。
横溝ファンの中には、原作を「聖典」などとあがめたてまつり、作中の記述はすべて正しいと信じて疑わない人も多い。
それもまたひとつの見識ではあるけれど、明らかな誤りは誤りと指摘した上で、なぜ作者は事実と異なる記述を行ったか、独自の解釈を考察した方が楽しいじゃないかと、へそ曲がりの筆者は思うのである。
本書「トランプ台上の首の盲点」における「11/23に銀行から現金が引き出されているとあるが、その日は祝日で銀行は休み」という指摘も、野暮なことこの上ないのだが、事件年代を類推する研究から見れば、貴重な証言となり得る指摘なのだ。
すべてを疑って小説を読むことは、むなしい作業かもしれないけれど、ひょっとしたら本文に書かれていない「もうひとつの真相」にたどり着く可能性だってありうるのだ。
栗本薫「月光座」、二階堂黎人「『本陣殺人事件』の殺人」は、そのようにして生まれた作品だったことを、思い起こしてほしい。
原作を疑う姿勢は、決して原作に対する冒涜ではない。むしろ、今まで気づかなかった原作の魅力を再発見するチャンスなのだと、本書は教えてくれる。
オススメ度  ★★★(3点/ときには発想の転換も必要)
 

※ 上記リストに洩れている横溝正史研究本がございましたら、ぜひ木魚庵までご連絡をお願いいたします。

(C) 2006 NISHIGUCHI AKIHIRO