スペードの女王
(「直野祥子集」収録 ブロンズ社 昭和52年) |
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忘れられた金田一コミックが、またひとつ掘り起こされた。
最初に木魚庵のもとに情報を寄せてくださったすーじーさんの記憶によれば、「スペードの女王」は「ヤングレディ」という女性誌に読み切りで掲載されたものらしい。
(初出「ヤングレディ」昭和52年2月8日号掲載)
巻末の略歴によると、作者の直野祥子は「ガロ」新人賞受賞後、レディスコミックのはしりのような作品を描いていたようだ。
本書に収録された他の作品は、たしかにレディコミ風の愛と性を扱ったもので、「スペードの女王」は、異色の存在である。
何より画風が本書収録の他の作品と一線を画している。骨太の線で人物や背景などのデッサンが劇画っぽい。女性誌よりも古巣の「ガロ」に掲載した方が似合いそうなタッチなのだ。
金田一耕助は、常に口の端を吊り上げてニヤニヤしているし、相棒の警部は時代を反映して加藤武そっくりである。
しかもヒゲ警部なんてふざけた名前で、金田一に親しみを込めて「ヒゲさん」とまで呼ばれているのだ!
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ストーリーは、60ページ内にまとまるよう、ややあらっぽいが原作に忠実にダイジェストしている。緑ヶ丘荘の管理人さんも登場しているし、二週間も音信不通となった金田一を、ヒゲ警部がおろおろしながら心配するさまもプリチーである。
ちなみに『真説金田一耕助』(毎日新聞社)に収録された横溝正史の日記によれば、昭和51年11月10日に「ヤングレディ」の編集者と直野が劇画化の挨拶に横溝家を訪れている。
翌12月には影丸譲也の「八つ墓村」増刷の連絡があり、明けて昭和52年1月にはささやななえが「獄門島」連載の挨拶に、7月にはチャンスコミック社の角谷徳男が「湖泥」劇画化の許可を得に訪れている。
横溝ブームが劇画界にまで浸透してきたことがうかがえ、興味深い。
(情報提供:すーじー さん) |
捜査の合間にエロ写真を見てなごむ金田一耕助とヒゲ警部(笑) |