Kindaichi Kousuke MUSEUM
【第1シリーズ】
犬神家の一族
本陣殺人事件
三つ首塔
悪魔が来りて笛を吹く
獄門島
悪魔の手毬唄
【第2シリーズ】
八つ墓村
真珠郎
仮面舞踏会
不死蝶
夜歩く
女王蜂
黒猫亭事件
仮面劇場
迷路荘の惨劇

横溝正史シリーズ
「悪 魔 の 手 毬 唄」

1977/08/27〜10/01
(全6回)
「悪魔の手毬唄」イメージ 脚本:田坂啓 監督:森一生
配役
青池リカ:佐藤友美 / 多々羅放庵:小澤栄太郎
青池歌名雄:高岡健二 / 青池里子:池波志乃
由良敦子:大塚道子 / 由良泰子:渡井直美
仁礼嘉平:鈴木瑞穂 / 仁礼文子:新海百合子
仁礼咲枝:松村康世 / 由良五百子:村瀬幸子
別所春江:川口敦子 / 大空ゆかり:夏目雅子
いと:日色ともゑ / お幹:三戸部スエ
駐在:東野英心 / 新聞記者:宍戸錠
日和警部:長門勇 / かね:野村昭子

「悪魔の手毬唄」評

しまぴー
 1977年4月1日、その衝撃的な広告が私の目にとびこんできました。
“恨みがつもって二十年。鬼首村に悪魔の数え唄が流れて美しい死体がまたひとつ…”それはその翌日から公開の市川崑監督作品『悪魔の手毬唄』の広告でした。
 当時、私は中学3年生(…歳がバレバレ)。まだ東映まんがまつりくらいしか映画館で映画をみたことのない私は、「いっしょに見にいこう」と友人を誘うこともできず(推理小説が好きな子がまわりにいなかった)、恐そうだからとても一人では見にいけず…結局、映画館には足を運べずじまいでした。
 見にいけなかったけど、どんな話なのか気になって仕方がなかったその年の夏、毎日放送で「横溝正史シリーズ“悪魔の手毬唄”が放映されました。

 主な配役は、このシリーズでおなじみの金田一耕助=古谷一行、日和警部=長門勇コンビ、青池歌名雄=高岡健二、青池リカ=佐藤友美、青池里子=池波志乃(現、中尾彬氏の奥様)、大空ゆかりこと別所千恵子=夏目雅子(!)、仁礼嘉平=鈴木瑞穂、由良敦子=大塚道子、井筒屋のおいとさん=日色ともゑ、鬼首村の駐在木村さん=東野英心(「あばれはっちゃく」のお父さん役でも有名ですね)、そして口やかましいけれど憎めないおばさん、今やドラマにCMに大活躍、金田一探偵事務所の留守番カネさん=野村昭子さん(このときから私はこの人を“金田一のおばちゃん”と呼んでます)。神戸の新聞社の編集長に宍戸錠。
 この話は亀の湯の親子の心の葛藤の物語といえると思います。
 高岡健二さん演ずる青池歌名雄は、妹思い、母思いの心優しい青年ですが、思い込んだら一途で熱いところもあります。泰子の遺体が滝壷で見つかったときの、勝平、五郎にとめられながらも二人を引きずってでも、一目散に泰子にかけよろうとするところ。遺体を水からあげてもいいことになった途端、漏斗を投げ捨て、泰子を抱きしめて滝からふりそそぐ水をあびながら、男泣きするシーンはまさに熱演。
 里子が殺され、落胆している母リカをなぐさめるシーンのやさしい語り。それを聞いているリカの放心したつぶらな瞳から流れる一筋の涙…。
 生まれつきの赤アザのため、蔵にとじこもってくらしている里子。この里子もすごく優しく、しかもシンの強い人として描かれています。由良泰子の通夜の晩、落ち込んでいる歌名雄に話しかけて拒絶され、涙ぐみながら一人で帰ろうとする文子をおいかけ、一緒にかえろうと声をかけてあげます。しかも帰るみちすがら、「兄ちゃんは泰子さんがあげえなむごいめにあいんさって、気がたってるもんじゃけん、かんにんしてやってね」と、歌名雄をフォロー。この一件で、泰子に続いて文子の最終目撃者も里子となってしまいます。
 文子の通夜の晩、今度は大空ゆかりのカバンに入っていた結び文を、「歌名雄兄ちゃんが勝平さんにあてたわび状」といって、とりあげます。おそろいのカバンを持っていたから歌名雄が間違えて入れたのだといって。亀の湯へ歌名雄の自転車の後ろに乗って帰る途中、「忘れものをしたから仁礼の家にとりにかえる」と言い出します。いっしょに戻ろうという歌名雄に、「お幹さんも一人できょうとがって(怖がって)るけん、先にかえってあげて」と送りだします。そのあと、もちろん、忘れ物をとりにかえるわけではありません。結び文の指定の場所へ出かけていったのです。歌名雄を見送る里子のアップ。何か寂しそう。いじらしいです。そして…。
 この事件は、青池家の人々がシンが強く、思いやりがあるということから事件が大きくなったということも言えるのではないでしょうか。

 夏目雅子演じる初々しい大空ゆかりこと別所千恵子も忘れられません。歓迎会の夜には「ミネソタの卵売り」を歌います。「卵に黄身と白身がなけりゃ、お代はいらない、コッコッココッコ、コケッコー」とワンフレーズだけですが。グラマーガールのゆかりは肩を出したグリーンのビスチェに黄緑色のスカート。黄緑色のスカーフを頭にかぶり耳の横で結んでいます。有名な歌手になったけれど、少しも天狗になるところもなく、仁礼勝平とけんかした歌名雄を「文子の通夜にいっしょにいこう、仲直りしないと」と、迎えにきたり、「里子さんは、私の身代わりになろうとしんさったんやね。あのとき、手紙の中味を確かめていれば…」と、後悔したり。この人も優しい人です。
 古谷一行演ずる金田一耕助も、すっかり自分の耕助像をつくりあげ、自然体で演じてます。逆立ち、頭をかくクセ。すっかり板についています。

 この話には、めちゃくちゃ憎らしい人、殺されても仕方ないやんという人は出てきません。それでも娘たちは次々と殺されていくのです。放庵さんも、人のいいご隠居さんです。それでも過去の事件におびえる人物(犯人)にとっては脅威の存在だったのです。
 全編、世間話をするような自然な会話の中で事件の糸口はポロポロと出てきます。心憎いこまかな演出も随所にみられます。たとえば、 1話、青年団の連中が大空ゆかりのポスター(モノクロ写真の上から着色用インクで色を塗ったような、昭和30年代にありそうなポスター)を鉛筆をあてて何頭身か計っている。そこへ「お客さん(耕助のこと)がまだ寝てるから、もう少し静かにしなさい」と注意しにやってくるリカ。去りぎわ歌名雄に、「そのポスターも片づけてな」。(リカは夫を殺した男の娘をこころよく思っていないことを表現)
 2話、泰子の通夜の晩、泰子の兄敏郎が耕助と日和警部、敦子が話している部屋に、入ってくる。
敦子「むこうへ行ってらっしゃい!」
敏郎(おどおどしながら)「いや、あの、警部さんたちにこれを見てもらおうと思って…」
 手には泰子の部屋の整理をしていて見つけたという本を持っている。耕助が手にとってパラパラとめくると中から1枚の写真。泰子と歌名雄が仲良く写っている写真だ。
敏郎「それじゃねえ」
耕助またパラパラとめくる。するとこんどは手紙が…
敏郎「それじゃ」
(すぐに手紙だけ持ってきても話はすむけれど、娘が本にはさんで大事に写真を持っていた、それほど仲良しだったことを表現)等々…。
 6話とも、冒頭これまでのあらすじを耕助が語ったあとに手毬唄が歌われますが、1、2話は歌詞の1番、3話は2番、4〜6話は3番と、その回の鍵になる唄が歌われます。さらに唄のバックには角川文庫の表紙そっくりの真っ赤な着物を着た手毬をつく童女のあと、その回に起こる事件の現場が映されるという懲りよう。1話は放庵さんの家と人喰沼、2話は滝、3話はブドウ酒工場、4話は六道の辻、5話、ゆかりがいる叔父辰造の家、6話、人喰沼という具合です。
 最終回は、ドキドキの冒頭です。5話の終盤、見張りの目を盗んで辰造の家を抜け出した大空ゆかり。その背後には謎の老婆が忍び寄る。その続きですから、ふりむいたゆかりは老婆の正体を見てしまいます。あ、これは書きすぎ?
 全編を通じて話される鬼首弁、あえて鬼首弁といわせてもらいます(私には岡山生まれ、岡山育ちの親戚がおりますが、「〜してつかあさい」「〜じゃけん」という言葉づかいは聞いたことがありません。実際、兵庫県との県境あたりでは使われるのかもしれませんが。よく京都が舞台のドラマがありますが、私は京都にずっと住んでいますがあの言葉づかいは耳なれませんので)。このあたたかい鬼首弁、ロケ地の土壁の家や、地道。素朴な人々。そしてあまり派手には登場しない死体。まるで、のどかな鬼首村が実際にあって、事件が起こって解決した、というようなドキュメンタリーに近い感じで描かれます。
 そうです。死体は枡や漏斗、繭玉や竿秤で飾られますが、派手じゃないんです。滝壷で発見される泰子は滝の本流の真下ではなく落ちてくる水の端のほうのひとすじの下に寝かされています。虹は出ていません。文子はブドウ酒工場の樽が置かれたすみっこのほうで発見されます。そこがまた私は気に入っています。
 全編に流れる真鍋理一郎さんの、笛をメインにした古風なBGMも雰囲気を高めます。
 一番お話ししたいのは、最終回なのですが、それはネタバレなので伏せておきます。事件が解決したとき、この悲しい「ボタンのかけちがい」(耕助談)を話す耕助。犯人がわかったときに傷つくであろう人物をかばおうとする日和警部。登場人物の心情を思いやりながら観ると感慨もひとしおです。泣かせますよ。
(C) 2003 NISHIGUCHI AKIHIRO
(C) 1998 SHIMAMURA KAYOKO