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横溝正史シリーズII
「不 死 蝶」
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1978/07/01〜07/15
(全3回) |
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監督:森一生 |
配役
矢部峯子:岩崎加根子 / 古林徹三:松山照夫
鮎川マリ:竹下景子 / カンポ:ジョン・パーム
矢部杢衛:小澤栄太郎 / 宮田文蔵:植木等
矢部慎一郎:山本昌平 / 矢部英二:新田章
河野朝子:松村康世 / 田代:山本紀彦
玉造康雄:江木俊夫 / 矢部都:栗田ひろみ
日和警部:長門勇 / 神崎署長:浜田寅彦 |
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事件真相は、鍾乳洞のコウモリのみぞ知る・・・
殿(けんいち) |
人には「好き・嫌い」というものがあります。
「日本一の名探偵」と詠われる金田一耕助にも、その「好き・嫌い」が当然あります。この「不死蝶」では、金田一耕助が仕事のことに対してそのことを露にするのですが、どうやら殺人事件等など重大事件に対しては異常なまでのファイトを見せるのですが、単調で簡単な調査はお気に召さない様子。
ことの起こりは、こうです。
日和警部が信州・射水の矢部杢衛なる人物からの調査の依頼を金田一耕助に持ち掛けます。初めのうちは乗り気で「ほうほう」と耳を傾けていた金田一さん、簡単な人物調査と聞くや否や、「僕、寒いのに弱いからな・・・」とあからさまにイヤな顔をするのです。
この場面を観て私は納得したことがあります。金田一さん、働けど働けど暮らし楽にならずの理由は、この仕事の選り好みにあったのだと。
第1シリーズには「金田一耕助探偵事務所」なるものが確実に存在していたのですが、第2シリーズには事務所のジの字も出てこないのです。おカネさんすら出てきません。
これは第1シリーズとの差別化を図ったものなのでしょうが、それではつまらないので、私は、「金田一耕助の選り好みによる仕事の減」→「収入の不安定による家賃滞納」→「事務所追い立て」→「現在に至る」のではないかと考えながら観ました。
日和警部曰く「こんな所でネズミみたいに暮らしている」という言葉からも明らかだし、昼間から新聞読みながらゴロゴロしているし、こたつすらなく日和警部に自分が潜り込んでいた布団で暖をとらせることからも、お気に入りの仕事が向こうから来るのをジッと待っているという感じ。
金田一さん、仕事してよ・・・。でもそんな金田一さんが、たまらなく好きだったりするんですが。ちなみにこの事柄は「横溝正史シリーズ」に限ったことですので、念のため。
しかしその直後届いた一通の手紙により、我らが金田一耕助は立ち上がります。
「射水へ来るな 生命が惜しければ射水の町に近寄るな」
この「招待状」がこなければ、今回は「名警部・日和が走る!〜射水の町の謎を追え〜」みたいなタイトルになっていたことでしょう。(ならないって)今回の作品も、一種の「金田一耕助・巻き込まれ型」物語です。
さて、この作品を通して観た感想を一言でいえば、「生真面目すぎるほど真面目に取り組まれているな」ということ。
金田一耕助の性格も、多くをでしゃばることなく感情的に深入りすることもないし、割と控えめ。だからといって存在感がないかというと、そうではありません。要所要所に金田一耕助を置くことによって、第2シリーズで顕著になった、いわゆる「名探偵」になってしまっている金田一耕助を、一歩引いた限りなく第1シリーズに近い存在に戻しています。
そうなのです。この作品の主人公は名探偵・金田一耕助ではなく、ブラジルコーヒー王の養女・鮎川マリや矢部慎一郎、そしてこれらを巻き込む事件に右往左往する人たちなのです。
鍾乳洞の暗闇の中、底なし井戸の前に立つ朋子(君江)らしき謎の女。そして23年前、矢部家次男・英二が惨殺された「その」場所で父・杢衛が胸を鍾乳石で一突きにされ殺害されるというミステリアスなシーンがあるかと思えば、教会の鐘楼に立つ謎の女を神父が追うと、その女は田んぼを抜けて山(鍾乳洞)へ走り去って行くという、サスペンスフルなシーンも盛り込まれている。
金田一耕助が鮎川マリらの協力を得て、犯人にトラップを仕掛ける鍾乳洞のクライマックスもスリル満点!これは監督の演出力の見事さといわずしてなんぞや、です。
この「不死蝶」を監督をされている森 一生氏ですが、実は第1シリーズ最終作「悪魔の手毬唄」も監督されています。「悪魔の手毬唄」は、しまぴーさんの批評に詳しいので、そちらもあわせてご覧ください。
その「手毬唄」で重厚でありながら、更にきめ細かい演出を見せた森 一生監督と聞いては期待しないわけにはいきませんよね。ちなみに第1、第2シリーズと続投で演出したのは森一生氏唯一人というのも特筆すべき事でしょう。
では、ここで「日和・チェーック!!」
今回、なんにしても嬉しいのはオープニングでいきなり日和警部が金田一耕助を尋ねて登場したことでしょうか。
「勘弁してくださいよ、この通り」と、射水行きをイヤがる金田一耕助が日和警部に頭を下げるのですが、「頭下げて済むんなら、ワシだってアンタよりもっと低く下げる」と土下座体制に入るのも、乗っけからやってくれますねー。
「今度はワシが(捜査の)指揮、代わってやったろ思うんじゃ」の言葉に金田一耕助も「ほうほう!結構ですねえ!」やはり横溝正史シリーズといえば金田一・日和コンビ、こうでなくっちゃ。金田一耕助の言葉、様子からも日和警部に対する信頼感はかなり大きいと思われます。
「さすが、その人ありと知られた鬼警部!」の金田一耕助の言葉(お世辞?)に「おだてちゃイケンよアンタ、鬼警部だなんて。おだてちゃイケンよ」と正直に照れ笑いの日和警部。もう、ポーカーフェイスのできないナイスガイ。
それでいて事件解決後、やりきれない思いで記者諸君に会見する日和警部、なんかカッコいいぞ。真相を知ってか知らずか、辛そうで複雑な表情がステキ。
最後になりますが、クライマックスで犯人が底なし井戸への投身自殺という形で事件は一応の解決を見ます。
鮎川マリが金田一耕助に問います。「金田一さん、これでいいんですの?」
「いいんです。事件はこれで終わった・・・。」金田一耕助が返します。真相を知る金田一耕助がやりきれない落胆の表情で、その場を後にする。その真相とは・・・。
ああ、ここに書きたい!でも書いたらネタバレになってしまうぅ!皆さん、原作やこの作品を観てご確認ください。
ラスト、実父・慎一郎と対面し涙するマリ。そしてマリを抱きしめる慎一郎。感動のシーンです。しかし、突然外が青白い光を帯びます。ぎょっとする窓越しの金田一耕助。庭に一匹の蝶が・・・。
「私は帰ってきます。蝶が死んでも、翌年には また蘇るように。」
この言葉と超怖い音楽で物語は本当の終結を迎えます。怖い、怖すぎます。うーん、オカルト。最後の最後まで心憎い演出だなー。心理的怖さで観る者をトイレに行けない状態にしてくれます。しかもラストシーンで・・・。
しかし23年の想いを込めて、慎一郎とマリを見守る朋子という見方をすれば、落涙・感動のエンディングですね。どちらの見方をしてもシリーズきっての名シーンです。
私はこの作品の総評として、「劇場映画に勝るとも劣らない見事な出来栄えの作品」とさせていただきます。実際、TVドラマとは思えないほど密度の濃い演出・完成度で私をクギヅケ状態にしてくれました。横溝正史シリーズのマイ・ベストはこの「不死蝶」できまり!とは、ちょっと大袈裟でしょうか?しかし、第1、第2シリーズを通して白眉ともいうべき完成度の高さは紛れもない事実。
ぜひぜひ、皆さんにもご覧いただきたい! この作品に対する私の強い思い入れもあるかもしれません。が、しかし「署名嘆願してでも観る価値のある名作」と言いきっても過言ではない作品。それがこの「不死蝶」なのです。 |
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(C) 2003 NISHIGUCHI AKIHIRO
(C) 1999 HONDO KENICHI |