Kindaichi Kousuke MUSEUM
【第1シリーズ】
犬神家の一族
本陣殺人事件
三つ首塔
悪魔が来りて笛を吹く
獄門島
悪魔の手毬唄
【第2シリーズ】
八つ墓村
真珠郎
仮面舞踏会
不死蝶
夜歩く
女王蜂
黒猫亭事件
仮面劇場
迷路荘の惨劇

横溝正史シリーズII
「黒 猫 亭 事 件」

1978/09/02〜09/09
(全2回)
「黒猫亭事件」イメージ 脚本:安倍徹郎 監督:渡邊祐介
配役
糸島繁:太地喜和子 / 糸島大伍:田口計
風間俊六:近藤洋介 / 日兆:池田秀一
日和警部:長門勇 / お君:井上聡子

苦手な「顔のない死体」事件にどう挑む?金田一耕助

殿(けんいち)
その昔、私がまだ小学生だった頃「横溝正史シリーズ」なる連続ドラマがあった。残念ながら私はリアルタイムではなく再放送で観たクチなのだが、そんな私にでもこのシリーズ評を書く機会を与えていただき木魚庵さんには感謝しきりである・・・、と堅苦しい前置きはつまんないし、読んでて面白くないと思うのでここからは気軽に私がシリーズ中、最も好きな「黒猫亭事件」についてお話しましょう。

この「黒猫亭事件」は第2シリーズで放映された作品なんですが、ちょっと尋常じゃないような構成で物語が進行します。どこが尋常じゃないかって、犯人像、その輪郭、そして犯人や被害者、その他もろもろ・・・肝心のところがクライマックスの金田一耕助が謎解きするまで一切出てこないのであります。その殺害シーンすら出てきません。出てくるのは「顔のない死体」のみ。そして埋められた黒猫の死体と部屋に残された血痕。

そこまでどう進行するかというと耕助や日和警部の聞き込み、そして関係者の証言のみ。ネタバレしない程度にストーリーを説明するには次回予告のナレーションを引用するのがよいでしょうね。
「捜査線上に浮かび上がった3人の女。お繁、桑野鮎子、小野千代子。その誰もが被害者に、そして犯人にもなりうる。〜中略〜金田一耕助、巧妙に仕組まれたトリックを打ち破ることができるか?」
となります。が、しかし、しかーし。解らん、解るわけがない!だって「顔のない死体」以外には、動機やそれまでの経緯すら画で説明してないんだもの。

でも駄作であるかというと、そうではない。よくぞ証言、聞き込みのみで前・後編の90分にまとめたな、と思うしドラマ的はこびも非常に巧い。いままでにはない斬新さや不思議な魅力に溢れている。正直、私も最初は戸惑いながら観てたのだが、次第にのめり込んでいく自分に気がつきました。別な言い方をすれば、探偵小説を「観ている」という感覚でしょうか。
私はこの作品の耕助がもっとも耕助らしく写ったのですが、これは監督の演出力によるところが大きい。すごいぞ渡邊佑介監督!趣向を凝らした演出が観るものを離さない。どこが?という点は下記に記した「耕助・日和に関する新たな発見」を参照してください。

「耕助・日和に関する新たな発見」けんいち編

>当分の間、先輩の所に泊めていただけませんか?
これは風間俊六に言った耕助のセリフ。遂に事務所追いたてを食い、宿無しになってしまったようです。ちなみに風間は「いいよ、心配するな」と快く引き受けてくれました。

>鰻丼ですか!!
鰻丼、私も好きですが耕助は「好き・嫌い」というより腹ぺこに思わぬご馳走!という喜びというか、驚きというか「マジで食えるの?鰻丼を!?」という状態でした。「しかし鰻丼て、本物のうなぎですか?」という言葉からも明らか。

>耕助、たばこぐらい自分で買えよ
いや、それができるくらいなら事務所追いたて食わないか。失礼しました。(笑)

>耕助、恐縮す
この作品の耕助はとにかく恐縮しっぱなし。しかも女性オンリー。
道を教えてくれた女性に恐縮。
料理を出してくれた松月のおかみに恐縮。
同じくおかみの「どうぞごゆっくり」に恐縮。
部屋を出るおかみの会釈に恐縮。
聞き込みに訪れた日華ダンスホール。その事務所で踊り出し、その姿をダンサーの女性に見られた。呆れ顔のその女性に恐縮。
探せばまだあるかもしれません。この恐縮三昧(?)の耕助、締めるところはビシッと締める。そこが金田一耕助たる魅力のひとつでは?

>女に興味がないわけでは・・・
こと松月のおかみには強い興味をしめす耕助。「いやあ色っぽいですね!ここのおかみ!」といささか興奮気味。その後「世の中、不公平ですな。こと女に関しては。」とも言っている。女に免疫がないだけで、全く興味がないというワケではないようだ。

>冴えわたる日和警部のギャグ!
書くとキリがないんですが・・・。顕著なものに「ブホ」っとお茶を吹き出したり、ストーブに手をつけてしまい「熱ちちっ!」等の基本的なものから、埋められた猫をみて「黒猫のようですな」の部下の言葉に「これが白い猫に見えるか」等の応用編まで多種多様。

>ドラえもんか?お前は・・・
日和警部はネズミが大の苦手らしい。蓮華院の防空壕を捜索中、ネズミがちゅうちゅう。それを見た日和警部、「世の中でネズミが〜」と情けなく腰を抜かし部下にしがみつきました。とほほ・・・。

>なんて足が速いんだ
手がかりを求めて黒猫亭から蓮華院までの近道である急坂を登る耕助。その耕助を追いかけた長谷川巡査が漏らしたセリフ。耕助、猛スピードで崖を登る登る!ちなみに登り切ったふたりを比較すると、長谷川巡査は「ぜいぜい」今にもぶっ倒れそうなのだが耕助はいたって平然。耕助さん、あなたはいったい・・・。

>顔のない死体は全く苦手でしてね
そうなんだって。本人が言ってるんだから間違いないでしょう。(笑)その後、耕助は私たち(視聴者)に向かって「この謎を解くのは・・・そう、あなたです!!」と指差す。私は「おれかーーー!?」とか思いました。

>金田一耕助、危機一髪!!
数ある危機一髪の中でも耕助最大の危機は、銃で仕留められそうになったクライマックスでしょう。弾が柱に当たって難を逃れましたが。もし命中していたら次回から「名警部・日和が走る!」みたいなドラマが始まっていたかも・・・。(ない、ない)

ソラで思い出せるのは、こんなもんでしょうか。後は皆さんが観る機会に新たな発見をしてください。

長くなりましたね。皆さん飽きてきた頃と思いますので、この辺でやめときます。ともあれ、「横溝正史シリーズ」は名作です。
「ぼく、金田一耕助です」から始まる物語も印象的でした。「三つ首塔」のみ、このセリフがないのが残念ですが。これだけ続いてるシリーズなので出来・不出来はやむなし、でしょうか。でも「好き・嫌い」の問題であって「良い・悪い」とは別問題でしょうね。好み的に私の「だーーーーい好き!!!」な横溝正史シリーズ。
皆さんもこの機会にご覧になり「だーーーーい好き!!!」になって欲しいです。
きっと新しい横溝ワールドに出会えると思いますよ。
(C) 2003 NISHIGUCHI AKIHIRO
(C) 1998 HONDO KENICHI