Kindaichi Kousuke MUSEUM
【第1シリーズ】
犬神家の一族
本陣殺人事件
三つ首塔
悪魔が来りて笛を吹く
獄門島
悪魔の手毬唄
【第2シリーズ】
八つ墓村
真珠郎
仮面舞踏会
不死蝶
夜歩く
女王蜂
黒猫亭事件
仮面劇場
迷路荘の惨劇

横溝正史シリーズII
「真 珠 郎」

1978/05/13〜05/27
(全3回)
「真珠郎」イメージ 脚本:安藤日出男 監督:大洲齋
配役
鵜藤由美:大谷直子 / 鵜藤:岡田英次
乙骨三四郎:中山仁 / 椎名肇:原田大二郎
真珠郎:早川絵美 / 藤原釜足
日和警部:長門勇 / 了潤:加藤嘉
怪奇・妖艶・幻想・・・横溝正史シリーズの異色作 殿(けんいち)
「真珠郎」評 ゆきみ

怪奇・妖艶・幻想・・・横溝正史シリーズの異色作

殿(けんいち)
「真珠郎」・・・・・原作も映像作品も未体験の方が、このタイトルを耳にして(または目にして)、これが人物の名前であると誰が想像できましょう。
これが、同じ「郎」でも「又三郎」や「桃太郎」だったら100%人名だってわかるんだけど、だって「しんじゅろう」ですよ。絶対(いえ、たぶん)わからないって。
不思議な響きです―「真珠郎」。金田一ものでは人名をタイトルに冠するものが少ないことも手伝って、ひときわ異彩を放つ、不思議なインパクトを持つ一編になったことは間違いないでしょう。今回は横溝正史シリーズきっての異色作の代表格である「真珠郎」をご紹介しましょう。

城北大学の講師である椎名肇は、夕暮れの窓越し、空に浮かぶ雲が「サロメに斬られたヨカナンの首」に見え、慄然とします。のっけから視聴者である私たちを、不思議な世界に引きずり込む、不気味な名エピソードです。夕日の赤色も手伝って、このシーンは、かなり怖い。
ちなみにそれを見た同僚・乙骨三四郎(変な名前!)は「私にはロバにしか見えない」と言いますが・・・そうか?ホントにあれがロバに見えるのか?
それはさて置き、乙骨は「君は疲れている」と、椎名に信州への旅行を持ち掛けます。まさかこの旅行へ行くことが、椎名を、そして金田一耕助を巻き込む世にも恐ろしい猟奇殺人事件への出発点となっているとは夢にも思わなかったでしょう、この時は・・・。その後、滞在する鵜藤家を皮切りに次々と起こる奇怪な首なし殺人事件。
さあ、どう挑む?我らが金田一耕助!

この物語が横溝正史シリーズのみならず、ミステリの異色作となっているひとつの要因は、殺人場面の、ほぼ全シーンに犯人が明確に姿、顔を現すことにあるでしょう。
他の作品では、まず被害者ありき。そしてストーリーを追っていきながら、「だれが犯人なのだろう?」とか「絶対コイツが犯人だって」等など、観ている自分たちも一緒に「加害者は、殺人犯はだれか?」とおのおのの思いを巡らせながら観ているのが一般的。

それがどうでしょう。この「真珠郎」なる作品、犯人・・・えーい、この際言っても構わんでしょう。狂気の美青年・真珠郎が殺害する現場をババーン!と、これでもか、これでもか、と見せている。画的に、そして心理的に私たちを恐怖に叩き込み、地獄絵を見せる真珠郎。

「だれが犯人なのだろう」なんてあったもんじゃない。最後の最後、金田一耕助の謎解きで本性を現す犯人・・・という展開ではなく、椎名肇や視聴者に「犯人は真珠郎ですゼ」と、その犯行過程を見せているのには驚き。

だから観ている私たちは、犯人・真珠郎の残虐な犯行手口、その巧みな手口に右往左往する金田一耕助や日和警部、そしてその事件に関わってしまい恐怖する椎名肇・・・という「表」のストーリーにまんまとはめられたまま、最終回まで騙され続けていくわけです。

え?騙され続ける? だって真珠郎が犯行を犯すシーンをバリバリ見せてるんでしょ? 犯人は真珠郎、他にどんな真実があるの?

待てーい!そこはそれ、横溝作品が、そんな簡単に事件をあっけなく終わらせてはくれませんゾ。しかしそれは観てのお楽しみ。意外な、そして超・驚きの結末に腰を抜かしてください。

ところで皆さん、「ドラマでストーリーを盛り上げる効果を思うさま挙げよ」と問われたら何を挙げますか?
それは音楽ではないでしょうか。
第2シリーズで総ての音楽を担当しているのは、作曲家・真鍋理一郎氏です。真鍋氏の音楽は、後の古谷一行劇場でも繰り返し使われたほど、そのインパクトは絶大なものですね。
奇をてらわない、その静かな、それでいて物語のおどろおどろしいムードを増長する氏の音楽は、独特な美しさを感じさせます。さらには第2シリーズに入って、よりグレードアップしていることに驚きます。
シリーズを通して観て、それは顕著です。例を挙げるなら、第2シリーズ9作品ある中で、この「真珠郎」、そして「仮面劇場」は同じオープニング・テーマが使われています。お気づきですか?
そう、この「真珠郎」、「仮面劇場」は、いづれも原作に金田一耕助の登場しない物語です。真鍋氏は、この2作品は他の7作品とは別種である、ということを音楽によって表現したとは考えすぎでしょうか。
ともあれ今回の「真珠郎」も、この作品の持つ妖艶で幻想的なイメージと、氏の作曲した悲しさと美しさ溢れる音楽の作風が見事にマッチし、第2シリーズの中でも出色といえるでしょう。「真珠郎」の特異で不思議な雰囲気は、真鍋氏のこうした音楽に因るところも大きいようです。
真鍋理一郎氏は他にも「ゴジラ対ヘドラ」、「ゴジラ対メガロ」などのゴジラシリーズや東映「地獄」、そして「青春残酷物語」など大島渚監督作品の音楽も手がけていますので、この機会に氏の音楽に触れてみるのも一興かも知れませんね。


さあ、では皆さんお待ちかね(勘違い)、日和チェーック!
これ好評なんだそうで(大誤解)、嬉しい限りです(うぬぼれ)。今回はどんな「うっかり日和さん」を見せてくれるのでしょうか。

自転車クラッシュ度★★★★★
日和警部登場インパクト★★★
日和警部ギャグ全開度★
うっかり度★★
今回出番少ない度★★★★
さらに影が薄い度★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

上の表をご覧いただければわかると思いますが、今回の日和警部、全くと言っていいほどの不調。というか役割的に、すごく普通の立場です。
あれれ?どうしたの日和さん。源妙寺の和尚・了潤さんにおいしいところをガンガン持っていかれて出番なし。日和警部、そして演じる長門 勇氏ラブラブの私にとって、これは痛い・・・。日和警部、ファイト!!心から声援を送りましょう。
とは言っても、超お約束・自転車クラッシュ、そして部下を叱る際の「机を叩いてイテテッ!」等など基本型ギャグは押さえています。それなりに日和節を堪能することはできますので、お楽しみください。

さて最後に、私事でたいへん申し訳ないのですが、こういうミステリものを観るときは、いつも「犯人を当ててやろう」と挑むのですが9割方玉砕です。
今回の「真珠郎」、やはりかすりもしませんでした。ラストのとんでもない「裏ワザ的どんでん返し」に気づくこともなく、してやられました。完敗です。うーん、悔しい、とっても悔しいぞお。いえ、もともと私にはそういう才能、皆無に等しいので今さら言うのもなんですが。それで、皆さんにお願いがあるのです。
「だれか、犯人当てるポイントなんかがあったら、是非ご一報ください!」

あ、でも「先に原作を読む」なんてのは、ダメですよ。(笑)
こんな私に愛の手を!

「真珠郎」評

ゆきみ
今をときめく美少年軍団と言えば、ジャニーズのタレント達。
それが、歯ぎしりして悔しがるような絶世の美少年がもしいたら、女の子はほってはおかないでしょう。
ただし、首なし死体にされてもいいなら・・・。

「真珠郎はどこにいる?城北大学講師・椎名肇は、その眼ではっきりと見た!」
こんなナレーションで始まる、「横溝正史シリーズ」第2期・2本目の作品が「真珠郎」です。

じつはこれ、横溝先生が創造した、もう一人の名探偵「由利麟太郎」ものなんです。
でも、このシリーズの探偵役は金田一耕助なので、当時、ご存命だった作者の了解を得て、金田一ものに変えてあるんですね。
こうでなくっちゃ!
前置きはこれくらいにして、本題です。

物語は、昭和23年のある日夕焼けの空に、原田大二郎演じる大学講師・椎名肇が「ヨカナンの首」のような形をした雲を見たところから始まります。
ヨカナンというのは、戯曲「サロメ」で、サロメにその首を切り落とされてしまう預言者のことです。
呆然としている彼のそばをたまたま通りかかったのが同僚の、中山仁演じる乙骨三四郎。
乙骨は半ば強引に椎名を旅行へ誘い、二人は休養と称して、信州・鳥越湖畔にある、元有名な生物学者であった、鵜藤氏の家に向かうのです。
一方、古谷金田一は、東京の食糧事情から逃れるために、遠縁の源妙寺という寺を訪ねてやはり信州に向かい、乗り合わせたバスで思いがけなく親友の椎名に出会い、お互いの無事を喜び合います。
そこへ手に白バラを一輪持った不思議な老婆が乗り込み、彼女は椎名達が鳥越湖へ向かうと知ると、「皆の回りに血の雨が降り、湖が血で真っ赤になる〜!」と謎めいた言葉を残し、バスを降りていきます。
金田一は俄然この老婆に興味を覚え追いかけようとしますが、意外に足が速く、見失います。

昔の遊郭の建物を、そっくり湖畔に移して建てたという鵜藤家についた椎名達を
出迎えたのは、真っ赤なシルク様の光沢のあるドレスを着た美しい女性・大谷直子演じる由美。

この家にいるのは由美と伯父の岡田英次演じる鵜藤氏の二人きり。
でも翌日、椎名は、由美が無人のはずの蔵からお膳をさげて出てくるのを目撃、乙骨にその話をすると、彼はすでにもう一人の存在に気づいており、誰もいない蔵の中を由美に見せられても、彼らの疑念は膨らむばかり。

その夜、異様な気配に目覚めた二人は、不思議な光景を見てしまいます。

それは、湖畔の柳の木の下、まるで、魚の鱗のように光る草色の服を身にまとい、今、湖から上がってきたように濡れた髪を伝って落ちる水滴は、尊い水晶の珠のごとく飛び散り、眼も綾に飛び交う無数の蛍火の中に蹌踉と立ち、彼が蛍の一匹を捕まえ口に放り込むと、彼の頬はほおずきのように光が透けてみえ、全身を蛍火に包まれ輝いている、世にも美しい少年でした。

次の日、椎名が鵜藤氏に昨晩見た少年のことを話すと、彼は激しく動揺しますが、椎名には理由がわかりませんでした。
釈然としないまま、乙骨と湖でボート遊びを楽しんでいると、突然、浅間山が噴火、それが合図であったかのように、惨劇は起こります。
ボートで逃げまどう二人は、屋敷の展望台で鵜藤氏と由美が襲われている所を見るのです。
凶刃をふるっているのは、椎名達が昨夜見た、美少年!

幸い由美は無事で、湖から戻ってきた椎名達とともに、行方不明になった鵜藤氏を探しに行く途中で、彼が運ばれるのを見たという老婆に会い、二手に分かれ湖の洞窟へ向かいます。

その中の「逃げ水の淵」で老婆と行動していたはずの乙骨がけがで昏倒、まもなく鵜藤氏も無惨な首なし死体で見つかり、椎名と由美はパニック状態、そこにボートに乗った老婆が現れ、ホッとしたのもつかの間、明かりに浮かんだその顔は、なんと先ほどの美少年で、その手には、鵜藤氏の生首が!
少年は、狂気のごとく笑いながら、水の中に首を投げ込んで、消えてしまいます。

ショックで「真珠郎は、真珠郎は。」と泣くばかりの彼女を落ち着かせようと、口づけする椎名。彼は由美を本気で愛してしまうのです。

まもなく通報で駆けつける金田一と日和警部、由美は、金田一達を「真珠郎」という名のあの少年が閉じこめられていた屋敷の蔵の奥の隠し部屋に案内し、恐ろしい話を打ち明けたのでした。

20数年前、鵜藤氏は、恩師の妻・愛子に横恋慕するも、顔の痣ゆえ拒絶され、そのスキャンダルで学者の道を絶たれ、世間からも葬り去られた彼は、愛子夫人と世間を逆恨みした挙げ句、復讐を思いつき「真珠郎」創造に成功、あらゆる「悪」の教育を施して外界に送り込み、夫人を殺し、世間をも混乱に陥れようとしていたのです。
「真珠郎」は、名前の通りの美しい美貌と、幼少時より生き物の首を取って殺して遊ぶ残虐性を合わせ持つ恐ろしい少年で、鵜藤氏は彼の成長を「真珠郎日記」に克明に記録していました。

日和警部は「真珠郎」が、長年蔵に入れられていた不満で逆上し逃走、自由を奪った鵜藤氏を殺し、彼が次に狙うのは、愛子夫人だと推理します。
警察も金田一も「真珠郎」の行方を探すのですが、その消息は、杳として知れないのでした。

椎名は、急に乙骨と結婚することになった由美と事件に心を残しながら、東京へ。
しかし、その惨劇はまだ終わらなかったのです・・・。
由美への想いが断ち切れず、さらなる惨劇に巻き込まれてゆく椎名の運命は?
東京へ越してきた、乙骨夫妻の回りに出没する「真珠郎」の意図は?

ここから先は書けません。続きは、是非、作品を見て下さい。

もし、椎名が「ヨカナンの首」なんて発想をしなければ、事件も起こらなかったかも?
それでは事件が成立しないので、やっぱり、発想は変えないでおいてもらいましょう。
ついでに金田一と椎名が親友だったという設定は、かなり強引な気もしますが、こうしないと話にならないのでこれも許しましょう!(寛大な私?)

金田一さんの推理は、いつも神がかり的なところ多少がありますが、今回はそれが顕著です。
「どこをどう押したら、そんな発想が出来て、事件が解決するの?」と思うのですがそこは天才たるゆえんと割り切ってしまっちゃいましょう!
しかし、食えないからと逃げ出した先で、事件にぶつかるなんて、運がいいのか悪いのか。ちょっと同情しますけど、それでこそ、金田一耕助!と、納得もします。

湖での鵜藤氏捜索のシーンですが、由美さん、服着替えるヒマなかったの?
てかてかのシルバーグレーのステキなイブニング着ちゃって。
ボートに乗りにくそうに見えますが?

洞窟での椎名と由美のラブシーンにもつっこみ。
首なし死体が目の前転がってんのよ?おたくら、どさくさに何するねん?
愛があれば、死体があっても怖くないらしい。愛は、恐怖に勝つ!ってか?

椎名役の原田大二郎のシリアスな演技も必見です。
今や、変なオジさんでしかない彼も、当時は、バリバリの二枚目スター、同局系列で放送されていた彼の代表作「Gメン75」では、ニヒルな警部補役を好演、端正な容貌とクールな目線にしびれる女性ファンも多かったようです。
もう、「真珠郎」ラストの胸をえぐられるような絶叫シーンや「Gメン」の役どころは望めない?

余談ですが、私の友人に古谷一行と、原田大二郎の区別が付かないヤツがおりまして、そいつは、この作品を見たときに、どーしても、一人二役やっている、と言い張ってまして、じゃ、どっちが二役してるんだ?と聞くと、ヤツは即座に「ワカラン!」と言いました(爆)

鵜藤氏も学者らしい復讐法、と言いたいけど、人妻に言い寄っといて人騒がせです。
どうせなら、自分をいかにハンサムに見せるか、研究した方がよっぽど有意義だと思いますが。

さて、最後にけんいちさんを見習って?「日和・チェック」といきましょう。
今回はまさにふんだりけったり。自転車に金田一さんと一緒に乗って現場に急行!が、ブレーキがきかずに、竹林につっこんで「あたた・・。あんた、こっちが命落とすわ、あ〜、いや。」とか、流される死体を追って水に浸かったとたんに「ハックション!」。
果ては、汽車の中で、アルミホイル包みの弁当を落として無惨に踏んづけられ「メシ抜きじゃ・・・。」とショゲてしまったりとかわいそう。

代わりに、加藤嘉演じる源妙寺の住職・了潤さんが日和さん顔負けの大活躍!
さすが、金田一の遠縁だけあってせんさく好きで役に立つおじいさん。
出番が少ない割には、金田一の腹具合や捜査の進み具合を心配したり、事件の関係者を見つけてきてくれたりするし、年季の入ったトボけた味も、イケてます。
ちなみに、ブレーキきかない自転車は、彼の所有物です。

なんと言っても「真珠郎」の見どころは、テンポのよいストーリー展開、作品全体に散らばる「非現実的な美しさ」と「猟奇性」、そして、最後の悲しくも感動的なドンデン返し。
オープニングから何度も登場する、蛍火の中の「真珠郎」の映像は幻想的で、すさまじい美しさがあり、シリーズ中もっともホラー色が強いのも特徴といえるので、ホラー好きにはお薦めです。
金田一の、椎名を思いやる優しさにも、胸を打つものがあります。
原作を金田一もの以外から取った、一番最初の映像化作品という点でも、現在も続いている2時間スペシャルの原型になっているのではないでしょうか?
でも、横溝作品の根底にある「人間の悲しい情念」は、この作品にも脈々と波打っていて、やっぱり大好き!と思わせてくれるのです。
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