お茶の水橋(東京都千代田区) |
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多恵子は雨にぬれそぼって、お茶の水橋のうえを二、三度、行きつもどりつする
(略)下を見ると、省線電車の線路が雨にぬれて光っている。お茶の水駅のプラットホームの雑踏が、遠い国のできごとのように望まれる。多恵子は、雨にぬれるのもかまわず、しばらくそこに立ちつくしていたが、やがてゆっくり橋を横ぎり、反対側のらんかんへ行く
水道橋のほうから上り電車がごうごうたる音を立てて、降りしきる雨の中を驀進してくる。強烈なヘッド・ライトが魔物の目のようだ。
電車が目の下へせまってきたとき、多恵子はとつぜん、らんかんを乗りこえた。
「あっ、危ない!
(「迷路の花嫁」より)
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小説中の描写に従って、雨のそぼ降るお茶の水橋から、水道橋方面を望んだ夜景です。 下半分の真っ白な光の流れは、お茶の水駅に進入しようとする総武線、いや、駅から出発しているところだったかもしれません。 買ったばかりのデジカメのため勝手がわからず、撮影で30分以上も立ちつくしていました。橋のたもとには交番があるのですが、よく職務質問されなかったと思います。
で、お茶の水橋の上から聖橋と駅のプラットホームを撮影したのが、次の画像。
(2001/3/31 木魚庵撮影)
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山村多恵子もこの風景を見た?
(2001/6/? 木魚庵撮影)
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聖橋(東京都千代田区・文京区) |
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聚楽ホテルを出た幽霊男は、駿河台から聖橋をわたって、聖堂のわきの薄暗い道へ出たが、向こうからやってきた若い娘を見ると、ふらふらッとそのほうへよっていった。
「もし、今晩は……?」
娘はぎょっとしたように、一歩うしろへ退いて、すかすように幽霊男の顔を見ていたが、だしぬけに、
「きゃっ!」
と、叫ぶと、ころげるように駆けだした。
「うっふっふ」
(略)無気味な男はマフラのおくで、得意そうなふくみ笑いをもらすと、そのままふらふら、いずこともなく姿を消した。
(「幽霊男」より)
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原作では、聖橋の先、薄暗い湯島聖堂わきが舞台ですが、本当に薄暗いので(笑)、その手前の現場写真です。もちろん、幽霊男の足どりのまま駿河台から湯島の聖堂方面を写しています。
ふらふらと歩く幽霊男の雰囲気、伝わりますでしょうか?
(2001/6/? 木魚庵撮影)
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ホテルJ(東京都千代田区) |
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駿河台にある聚楽ホテルというのは、東京で一流とまではいかないが、二流のなかでもまずよいほうのホテルである。
(「幽霊男」より)
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聖橋にほど近い場所に、このホテルはあります。聚楽ホテルに非常によく似た名前のホテルです。
しかし、「幽霊男」が執筆された昭和29年には、ここにはまだホテルはなく、その前身である大衆食堂が建っていました。
場所も小説の駿河台からはやや離れており、よく似た名前はただの偶然であることがわかります。
とはいえ、小説のイメージを喚起させるには、名前、立地とも実にもってこいの条件をそなえたこのホテルを、紹介しないわけにはいきますまい。
(2001/7/12 木魚庵撮影)
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