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アナタのお名前なんてーの?
 
 先日、さるオフに「読物時事」昭和23年1〜3月号を持参したときのことです。
 参加者のひとりに雑誌を見せたところ、
「おっ、『
コクランヒメ』が載っている号ですね」
 と言われてとっさに字が浮かびませんでした。
 場つなぎの苦しまぎれに♪♪コクラン生れで玄海育ち♪♪、とやってしまおうかと思ったとき、ようやく「黒蘭姫」のことと思い至る始末。
 角川文庫「殺人鬼」の目次には、「
クロランヒメ」とルビがふってあるので、これはその方の覚え間違いなのですが、こういう間違いって、なかなか指摘できないものですよね。

 そこで、横溝作品に登場する、読み方の難しい、または誤って呼んでいる人を見かけたことのある人名、地名、作品名などを挙げてみようというお遊びです。
 
貞之助(鴉、毒の矢)
 金田一シリーズには貞之助さんが二人登場します。
 「鴉」の蓮池貞之助と、「毒の矢」の橘貞之助署長です。
 なんとなく「
サダノスケ」のほうが自然なひびきを持つことから、そう読みたくなりますが、もっとも有名な実在する貞之助さんは「テイノスケ」と読みます。
 誰あろう、映画監督の衣笠貞之助です。
 また、フランス文学者の田辺貞之助氏も「テイノスケ」組です。
 では、作中の「貞之助」さんはなんと読むのでしょう?

 「な、な、なんだって、て、て、貞之助がかえって来たんだって?」

 こう叫んだのは金田一耕助です。て、て、とどもっているのは、直前のなんだってを受けたものではなく、貞之助を「テイノスケ」と言いたくてどもってしまったようです。
 
乙骨三四郎(真珠郎)
 小野寺昭が金田一を演じた「土曜ワイド劇場」版の「真珠郎」では、「オトボネ」と呼んでいましたが、実在する乙骨さんは、「オツコツ」または「オッコツ」と発音するようです。
 「横溝正史シリーズII」の「真珠郎」でも「オツコツ」でした。
 
一柳賢蔵(本陣殺人事件)
 何で読んだか忘れましたが、「イチリュウ」と振り仮名がついていたのには我が目を疑いました。たしかに「イチリュウ」さんも実在しますが、通常は「イチヤナギ」と呼びます。
 ただし、「夜光怪人」の一柳博士には「
ヒトツヤナギ」とルビがあります。
 関ヶ原の合戦で東軍に味方した戦国武将、一柳直盛が「ヒトツヤナギ」と読みます。
 
青池リカ(悪魔の手毬唄)
 市川崑監督作品では、湯桶読みで「アオチ」と発音していましたが、「横溝正史シリーズ」では素直に「アオイケ」でしたね。
 手元にあるすべての版の「手毬唄」をひっくり返してみたのですが、仁礼や由良、はては磯川警部にまで振り仮名があるのに、青池にだけは、どの本もルビなしなのです。当時は、それだけ一般的な名前だったのでしょうか?

 なお「エロイカより愛をこめて」で有名な漫画家の青池保子さんは、「アオイケ・ヤスコ」と読みます。
 他にも、インターネットのサーチエンジンで検索した限りでは、全国の「青池」さんは「アオイケ」と発音されるようです。
 唯一、映画監督に青池憲司さんという方がいらして、「アオチ」とお読みするようですが、この方は「青
」が正しい表記のようです。
 
本位田鶴代(車井戸はなぜ軋る)
 横溝の友人、本位田準一の存在を知らない読者には、読み方の難しい姓の一つになるでしょう。
 これは「
ホンイデン」と読むのが正しいようです。
 
神門貫太郎(貸しボート十三号)
 「シンモン」「ジンモン」「カンモン」と三通りの読み方を聞いたことがあります。
 まあ「カンモン」はさすがにうがちすぎではないかと思いますが、「シンモン」と澄むのか、「ジンモン」とにごるのか、それによってはキャラクターのイメージさえも左右しかねない問題ですね(なワケないか)。

 さっそくサーチエンジンで調べてみました。「神門」という地名、人名、ともに実在します。しかも、その読み方は「シンモン」でも「ジンモン」でも、もちろん「カンモン」でもありません。

 地名では、宮崎県に「神門」と書いて、「
ミカド」と発音する地名があります。他に千葉県に「ゴウド」、島根県に「カンド」と読む「神門」がありました。
 また、埼玉県秩父に「神門寺」、読み方は「
ゴウドジ」があり、北海道は網走に「神門の滝」があり、これは「ジンモンノタキ」と読むようです。
 それぞれに由来がありそうな地名ばかりですが、ここでは深い検証は避け、先を急ぎましょう。

 人名でいえば、「神門」と書いて「
ゴウド」または「カンド」と読ませるのが一般的であり、興味深いことにそのほとんどが島根県松江市周辺(つまり「カンド」地区)の方でした。
 では、我らが金田一耕助のパトロンのひとり、神門貫太郎氏は「
ゴウド貫太郎」、または「カンド貫太郎」と読むのでしょうか。

 横溝正史が生まれ育った街は神戸「
コウベ」です。「殺人暦」など戦前の横溝の作品には、神崎「コウザキ」という名前の作中人物が登場します。神を「コウ(ゴウ)」と読む下地は十分にありました。
 また、疎開していた岡山県は、島根県と隣接しています。あるいは疎開先の岡田地区に、島根から移り住んだ「神門」さんがいらしたのかもしれません。
 それらの可能性を完全に否定することはできませんが、横溝のネーミングセンスを考えたときに、「
ゴウドカンタロウ」「カンドカンタロウ」は語呂が軽すぎます。
 「ゴウド」「カンド」以外の読み方はないのか。これがあります。人名ではありませんが、もっと一般的な「神門」があるのです。
 大きな神社の入口には、「随神門」の他に「神門」があります。これは普通に「
シンモン」と読みます。横溝正史は、この「神門」から登場人物の名前を拝借したとは考えられないでしょうか?

 島根県「神門郷」の出自説と、神社の「神門」説、どちらにしても、神門氏は神道に深いつながりのある姓のようです。
 
獄門島
 瀬戸内海に浮かぶ海賊と流人の島、「ゴクモントウ」。でもちょっと待って!
 瀬戸内に限らず、日本国内で「トウ」と読む島はごくごくわずかにすぎません。
 アイヌ語からきた利尻島、礼文島と沖縄本島くらいじゃないかな?
 あとは佐渡島、八丈島、石垣島、淡路島、小豆島、仁右衛門島と、「シマ」か「ジマ」と読ませるのが圧倒的です。そのためか、片岡千恵蔵主演の映画は「
ゴクモンジマ」と読ませていました。
 ただし、横溝正史自身は、素直に「
ゴクモントウ」と読ませたかったようです。
 
女怪
 ほとんどの方は、「ジョカイ」と読むと思うのですが、片岡鶴太郎が主演のドラマでは、「ニョカイ」と紹介されていました。
 女官を「ニョカン」、女房を「ニョウボウ」とする日本古来の読み方に従えば、「ニョカイ」の方が正統であり、じじつ歴史小説などではそのようにふりがなが振ってある場合があります。
 
 
 横溝作品の難読固有名詞をざっと挙げてみました。
 皆さんが「読み方が難しい、どこか変だ」と思った名前を見かけたら、ぜひともお知らせください。ここで紹介させていただきます。
 

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