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金田一耕助伝:等々力二世との確執


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 金田一耕助と等々力二世の栄志君って、実は仲が悪いんじゃないの、とふと思ってしまいました。
 こんな無責任な憶測の出所は『病院坂の首縊りの家』下巻 P.261(角川文庫)の金田一さんのセリフです。

「そうそう、ご令息の栄志君にもお眼にかかりましたよ。別にご挨拶はしませんでしたけれどね」

 長い付き合いの等々力警部の息子さんと挨拶も交わさないなんて、田舎育ちで義理堅い金田一さんらしくもないとは思いませんか。ひょっとしたら、等々力栄志警部補の方が無視を決め込んだのではないでしょうか?
 だとすれば、父親とは戦前からの付き合いで、今度の本條写真館の事件の捜査にも協力している金田一さんを、栄志君はどうして無視などしたのでしょう? 上司の加納警部も、金田一さんにはずいぶんとお世話になっているというのに。

 ひとつには、近代警察の論理を身につけた栄志君にとって、金田一耕助の存在が煙たいものとしてうつったのかもしれません。
 父と同じ道を歩き始めた栄志君は、警察官なのに私立探偵と馴れあっている父に反発していたふしがあります。等々力大志元警部が、こう嘆いていたのを覚えていますか?。

「いまは万事組織で動く時代ですからね。うちの倅などもふたことめには組織がどうの、グループがどうのと持ち出すんですからね。こっちはアタマにきますよ」

 しかし、これはあくまで表面的な問題です。
 『病院坂』の他の場面では、栄志君は金田一さんに筒抜けなのを承知の上で、父の等々力元警部に警察内部の極秘情報を打ち明けています。
 栄志君にとって、金田一さんが警察機構にそぐわない人間であろうとなかろうと、本当はどうでも良かったのかもしれません。

 では、等々力栄志君が金田一さんを敬遠する、本当の理由はなんでしょう。

 それは、金田一さんが等々力警部を独占して、父親として栄志君と一緒にいる大切な時間を奪ってしまったからです。
 少年時代の栄志君は、きっと等々力警部にどこかに連れて行ってもらったことなどないに違いありません。遊園地やプラモデルの展示会に行こうとせがんでみても、等々力大志氏はきっとこう言っただろうからです。
「ゴメンよ、栄志。今週の日曜は、金田一先生と鏡が浦の海岸に行く約束をしてしまったんだよ。ホラ、金田一先生はひとりぼっちな人だから、お父さんが一緒に遊んであげないとさびしくて自殺してしまうかもしれないんだ。今度はぜったい栄志の約束を優先させるから、日曜日は勘弁してくれな」
 でも、その次の機会には、等々力警部は金田一さんの招きで軽井沢に出かけてしまうのです。
 これでは親の友人を恨むなといってもムリな話。栄志君が金田一さんに冷たいそぶりを見せるのも、見当違いじゃが仕方があるまい、というわけなのです。
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