金田一耕助図書館・開架図書の部屋

東都書房「横溝正史傑作選集」(昭和40年 全8巻)

装幀:上西康介


横溝正史傑作選集1「犬神家の一族」(東都書房)20th Feb. S40
東都書房「犬神家の一族」

収 録 作
  • 犬神家の一族
 日本で指折の大財閥の当主で一生独身を通した犬神佐兵衛翁の遺言書は世にも奇怪なものであった。
 漠大な全財産はあげて恩人の遺児として翁が大切に養っていた珠世に譲られ、全事業は翁の妾腹の娘松子竹子梅子の生んだ子、すなわち孫にあたる佐清、佐武、佐智の三青年のうち珠世が配偶者として選んだ者が主宰するというのがその骨子であった。飢えた狼の群に一片の肉を投ずるような遺言には何か深い意味が秘められているのだろうか?
 犬神家の顧問弁護士から呼び出しの書状を受け取った金田一耕助は、本邸のある諏訪にかけつけた。が、おそかった。連続殺人の発端がもう初まっていた……
(裏表紙梗概より・誤字含めて原文ママ)

※ だーかーらー、「が、おそかった」じゃなくてさ(笑)、事件はこれからなんだから少しは防ぐ工夫をしなさい。
 金田一さんもよほどあわてたのか、「諏訪」に駆けつけていますが、小説の舞台は「那須」で、諏訪はそのモデルとなった地名ですのでお間違えなきよう。
 珠世と思われる表紙の女性は、ピアノに腰掛けているのかな? 花の髪飾りに黄色のスカートがオシャレです。
 事件の発端となったのは犬神佐兵衛翁の「世にも奇怪な」遺言書ですが、なにもわざわざ一生を独身で通したことまでスッパ抜かなくっても、ねえ。

横溝正史傑作選集2「悪魔が来たりて笛を吹く」(東都書房)20th Feb. S40
東都書房「悪魔が来たりて笛を吹く」

収 録 作
  • 悪魔が来たりて笛を吹く
 フルートの名演奏家で「悪魔が来たりて笛を吹く」の作曲者もと子爵椿英輔氏が謎の失踪をした。「これ以上の屈辱不名誉に耐えられない。悪魔が来たりて笛を吹く、父はその日まで生きていることは出来ない」とのメモを娘の美禰子に残して。妻のあき子夫人や同居している夫人の兄新宮もと子爵や伯父の玉蟲もと伯爵等は何かおびえている。家庭内のそんな空気に堪え切れなくなった美禰子は金田一耕助を訪問して相談をしたのだが、はたして奇怪な連続殺人が起った。
 金田一耕助は椿子爵の足どりを追って真相の究明に乗り出したが、閉鎖的な貴族社会の淀んだ血のからみ合いが醗酵し、ここに誕生した悪魔の正体が次第に曝露されて行く。
(裏表紙梗概より・誤字含めて原文ママ)

※ またしても「奇怪な」連続殺人が! この梗概の筆者は、「奇怪」という表現がお好きなようです。
 「玉蟲伯爵」の表記は本文中でも使用されています。旧字で表記されると、にわかに戦前の政界のドン、といったイメージが浮かび上がってくるから不思議なものです。
 表紙の婦人は、やっぱり椿あき子奥さまなのでしょうか。よく見るとわかりますが、左肩は素肌が露出しています。つまり彼女は、赤いドレスを「着ている」のではなく、「巻きつけている」だけのようなのです。
 その表情も、誘うような眼差しと肉感的な唇で、コケットリーな感じが出ていて非常にお気に入りの表紙です。外巻きカールもキュート!

横溝正史傑作選集3「八つ墓村」(東都書房)20th Mar. S40
東都書房「八つ墓村」

収 録 作
  • 八つ墓村
 孤独なサラリーマン寺田辰弥に降ってわいたような一身上の激変が見舞った。寺田辰弥という人物は有名な大牧畜業者田治見家の血縁者であり、家を継ぐために帰村を求められている、と課長から伝えられたのである。
 彼は期待と不安の入り混じった気持で弁護士の事務所を訪ねたが、彼の臍の緒書と身体にのこる傷跡とによって身元は証明された。が同時に、その傷跡によって、母と父との不思議な夫婦関係と父の奇怪な死を知った。
 彼は迎えに来た親類の女で未亡人の美也子の妖しい美しさに魅せられて帰村したが、彼のあるところ殺人が連続し、彼は窮地に陥った。彼を勇気づけたのは腹ちがいの姉春代の謎のようなやさしさだった。
(裏表紙梗概より・誤字含めて原文ママ)

※ あまたいる八つ墓村の事件関係者をさしおいて、梗概に登場してしまうとは、かっこいいゾ課長(笑)。
 っていうか、梗概には落ち武者のたたりも32人殺しも書かずに、辰弥をサラリーマン、田治見家を大牧畜業者として紹介しているあたりが、社会派推理小説全盛の時期に出版されたことを色濃く物語っていますよね。
 ちょっとだけ笑ったら、そんな本格不遇の時代に横溝選集を出版してくれた東都書房さんに感謝しましょう。
 「奇怪な」死を遂げた父も登場。ここまで読んだアナタなら、もはや知らず知らずのうちに「奇怪」という字を探しているはず。
 ところで表紙の女性、どこか内田有紀ちゃんに似ていない?

横溝正史傑作選集4「本陣殺人事件・蝶々殺人事件」(東都書房)20th Mar. S40
東都書房「本陣・蝶々」

収 録 作
  • 本陣殺人事件
  • 蝶々殺人事件
 本陣の家柄を誇る一柳家の当主、もと大学の哲学講師賢蔵が中年になって結婚に踏み切り、しかも、この結婚には先代未亡人糸子をはじめ一族こぞって反対している事は村中の評判になっていた。その問題の結婚式の夜、寝室にあてられた総紅殻ぬりの離家で新婚の夫婦が金屏風の下に血みどろで死んでいた。部屋は内部から完全に戸締りした密室であった。(本陣殺人事件)
 世界的なソプラノ歌手原さくら女史が、大阪の公演に西下したが、先発の一行が稽古に入ったそのさ中に、コントラバスのケースの中に詰められて死体となって到着した。女史を崇拝していた男性は多く、何かと噂の多かった女史ではあったが……(蝶々殺人事件)
(裏表紙梗概より・誤字含めて原文ママ)

※ さあ、突然「奇怪」が姿を消しました! 紹介文を短くさせるために、カットされたのでしょうか。
 この表紙も、いいですねえ。アメリカのパルプ・マガジンのような安手な娯楽っていう感じで。本文とどう関わりがあるかは、まあ触れずにおきましょう。
 「本陣」の紹介文では、もはやお約束の表現が使われていますね。それにしても「中年になって結婚に踏み切り」なんて、まーたおせっかいなこと書いて。
 いいじゃないのそんなこと。そっとしといておやりよ。

横溝正史傑作選集5「白と黒」(東都書房)20th Apr. S40
東都書房「白と黒」

収 録 作
  • 白と黒
 東京の西郊に出現した、「日の出団地」のアパート群。近頃ここに、コンクリートの密室団地住宅内部の秘事を暴露する怪文書が横行し、住居者が動揺していた。不倫姦通近親姦等々がえげつない筆致で綴られた文書は、雑誌か新聞から切り抜いた活字の文字を張り合わせたものである。
 もと銀座のバーで働いていた須藤順子も怪文書の被害者の一人である。彼女はこの一件を相談するため旧知の金田一耕助を団地に引っ張って来る。ところが、二人を待っていたのは、団地の工事現場で発見された女性の死体だった。濃いコールタールを頭からあびて人相はわからないのだが……金田一耕助の活躍がはじまり意外な事実が次々と出て来る。
(裏表紙梗概より・誤字含めて原文ママ)

※ しのび寄る黒い影におびえる女・・・、っていうか、妙に不自然なポーズとってますよね。まあ、カバーガールだから仕方がないか。
 「不倫姦通近親姦」とはまた、ずいぶんと並べたてたものです。間違ってはいないけど、通俗味で社会派の読者にも手に取ってもらおうという意図が見え見えです。
 なお、本書は連載後2度目の単行本化にあたりますが、横溝氏の日記によると、「(前回の出版時に)冗漫なところを適当に削るつもりであった」が、「出版社で原文のまま本にしてしまった」ので、再度本書を出版する「この機会に少し削ろうということになった」そうです。つまり、本書が現行本「白と黒」の初刊本ということになります。

横溝正史傑作選集6「獄門島」(東都書房)20th Apr. S40
東都書房「獄門島」

収 録 作
  • 獄門島
  • 車井戸はなぜ軋る
  • 蜃気楼島の情熱
 「獄門島……行ってくれ、おれの代りに。三人の妹が殺される……」と言って息を引き取った友人鬼頭千万太の死を伝えるために、金田一耕助は島へやって来た。が、彼はそこで何を見たか?
 狂人として座敷牢にとじ込められている父親、美しいが奇矯な妹月代、雪枝、花子。近隣に響いた大網元としての屋台骨は、しっかり者の従姉早苗がなんとか維持して来たらしいのだが、千万太なき後どうなることか、一家の顧問了然和尚、荒木村長、村瀬医師が頭をかかえている。勢力争いをしている分鬼頭家では美少年鵜飼をそそのかして、三人姉妹を誘惑しているとの噂だ。こんな状況下彼女達が次々と奇怪な姿で死んで行く……
(裏表紙梗概より・誤字含めて原文ママ)

※ 鬼頭千万太との関係が「戦友」ではなくただの「友人」となっているなど、梗概の筆者がわざと現代的な言葉を駆使しているのは明らかです。
 「一家の顧問(だったのか!?)」、了然和尚、荒木村長は良いとして、村瀬医師とはいわないでしょう、普通。親しみを込めて幸庵せんせいでいいのにねえ。
 あれだけ我慢したのに、もう「奇怪な姿で死んで行く」月雪花が登場。
 表紙はそんな彼女たちが現代モードに身を包んだら、というモチーフでしょうか。これまた新鮮でいい表紙です。

横溝正史傑作選集7「悪魔の手毬唄」(東都書房)20th May. S40
東都書房「悪魔の手毬唄」

収 録 作
  • 悪魔の手毬唄
 鬼頭村は、いま二重の意味でわき立っていた。故郷へ錦をかざった人気歌手大空ゆかりの噂と、夕暮れの仙人峠を越えて村へ入り込んだ奇怪な老婆の風説とで。
 そこへ土地の古老多々羅放庵の行方不明―それに引き続き二十三歳になる村の有力者の娘たちが、次々と手毬唄に歌い込まれた通りの姿で死んで行く事件が起った。
 静養に来ていた金田一耕助は、騒ぎに巻き込まれるが、彼にはこの一連の事件が、二十三年前に起った詐欺師恩田幾三が青池源次郎を殺害の上ゆくえをくらました迷宮入り事件と関連があるような気がしてならない。歌手大空ゆかりは恩田の種だというではないか……
(裏表紙梗概より・誤字含めて原文ママ)

※ おやおや、いきなり「鬼頭村」ですか。そういえば古谷一行の2時間ドラマに、そんな名前の村が舞台のヤツがあったなあ。
 やたらと二十三年を強調しすぎるのも、下手を打つとネタが割れそうでヒヤヒヤものです。
 全身花を背負っているような女性は、青池リカでしょうか? まるで菊人形か猿之助の宙乗りかといった風体ですなあ。
 例によって「奇怪な老婆」も登場。

横溝正史傑作選集8「女王蜂」(東都書房)20th Jun. S40
東都書房「女王蜂」

収 録 作
  • 女王蜂
 大道寺智子は近く満十八歳になる。それを機会に東京の継父の邸に引き取られることになっていて準備に忙しい。
 その頃、東京の大道寺欣造の邸へ奇怪な警告状が届いた。「娘を呼びよせることをやめよ。……娘のまえには多くの男の血が流されるであろう。彼女は女王蜂である……」
 金田一耕助は彼女の身辺護衛を依頼されて月琴島へ来た。ああ、その美しさ。気高く、威厳にみちていながら、しかもなお、全身から発散する性的魅力。むろん、彼女自身はそれに気がついていない。だからなお危険なのだ。恐ろしいのだ。金田一耕助は戦慄する。
 果して彼女が本土に第一歩を印したときから殺人がはじまった。
(裏表紙梗概より・誤字含めて原文ママ)

※ 本来全7巻だったはずの傑作選集も、「奇怪」の大安売りの効果あってか、8巻目が追加出版されました。
 でもよっぽど急な決定だったのか、8巻目の本書の巻末の既刊紹介も「全7巻」のままです(笑)
 花柄のバスタオルを使う、若鮎のような肢体の智子の表紙はグーなのですが、紹介文の段落1個分も智子の美しさに費やして、どうしようというのか?
 ダメ押しで「奇怪な警告状」が。横溝作品は奇怪に満ちあふれているということなのでしょうか。

※ 表紙画像は、紹介のための引用です。この件について、関係各位からのお問い合わせは、こちらをクリックして下さい。

(C) 2001 NISHIGUCHI AKIHIRO